FE電子銃を搭載した波長分散型EPMAを開発
−世界で初めてサブミクロン分析を可能−

分析ステーション
表面分析グループ
木村 隆



 電子線マイクロアナライザ(EPMA)は材料組織に含まれる成分元素を定量的に分析する装置として世界中で広く使用されています。しかし、その空間分解能は数マイクロメートル以上であり、最近の新材料開発に関係して要求されるサブミクロン領域での分析は不可能とされてきました。EPMAでこうした微小領域での分析を可能にするためには、低い電圧で電子を加速しながら十分な輝度をもつ電子源を持つことが必要です。こうした電子源として電界放射型(FE)電子銃があります。しかし、波長分散型EPMAでは排気容積が大きいことと、X線検出器からわずかに漏れ出すガス成分(Ar+CH4)により、電子銃の真空度をFEが安定して動作する真空領域(約10-8Pa)まであげることが難しく、FE電子銃は不可能とされてきました。
 こうした困難を解決する方法として、図1に示すように電子銃と試料室の間に中間室を配置し、それぞれ単独で排気できる構造としました。図2はAlとSiの境界を分析した結果で、各加速電圧ともビーム電流は10nAです。Wヘアピンタイプの電子銃(熱電子を利用する従来の装置)では加速電圧が8kVの時、分析領域のサイズは最小になります。一方、FE電子銃では10kV以下の加速電圧でほぼ一定となりサブミクロン領域での分析が可能なことがわかります。このように新型FE-EPMAはWヘアピンタイプの電子銃を持つものに比べて空間分解能を1/3以下にすることができます。また、ビーム電流を増やしてもビーム径が広がらないことから分析時間を1/4以下に短縮することが可能となりました。
 波長分散型EPMAにFE電子銃が搭載可能であり、かつ安定して動作することが明らかになったことから、EPMA分析の高分解能化がさらに促進されます。また、EXEFS(発光X線微細構造解析法)による構造解析や状態分析の精度のさらなる向上が見込まれ、新たな分析技術の発展に寄与すると期待されています。
補足説明
ショットキータイプ:Wチップの表面をZrOで覆うことによって、さらに電子を放出しやすくしたもの
(本研究成果は、日刊工業新聞、日本工業新聞、日経産業新聞、化学工業日報の各紙に紹介されました。)

図1 FE-EPMAの模式図

図2 加速電圧と分析サイズの関係



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