高効率な小型・薄型
AC−DCコンバータを実現
−30W出力級圧電トランスの開発−

物質研究所
電子セラミックスグループ
羽田 肇

日本電気(株)
機能材料研究所
井上 武志

早稲田大学
理工学部教授
一ノ瀬 昇



 ノートパソコンなど携帯機器の薄型化が進展する中、現状のAC-DCコンバータでは、占有体積が大きい電磁式トランスの採用がこの進展を妨げていました。この電磁式トランスを薄型の小型化が可能な圧電トランスに置き換えることを目指し、私たちは、電極と圧電体や絶縁層などとの界面のバッファーレイヤーを工夫し、ハイパワー圧電セラミックス材料を高度に積層化することで30W出力圧電トランスを開発し、高効率なAC-DCコンバータ電源を実現しました。その結果、将来における携帯機器への組込みにも道を拓くことになりました。
 圧電トランスは、現在、不燃性で電磁ノイズが出ないという特徴を活かし、これまでカラー液晶バックライト点灯用などの高電圧発生用に用いられています。ただ、その出力は5W程度で、出力として数10W以上が要求されるAC-DCコンバータ用としては不向きでした。私たちは、圧電横効果を利用した積層型圧電トランスに着目し、この解決を図りましたが、トランスの発熱や入出力間の絶縁性に解決すべき課題がありました。そこで、コンバータとしての回路を最適化するとともに、電極と圧電体や絶縁層などとの界面のバッファーレイヤーを工夫しました。
 研究を進めてきた結果、寸法が14×14×6(mm)の正方形板状圧電トランス(図参照)では、30Wの出力電力時で変換効率96%以上、温度上昇が22℃以下を実現することができました。これは従来の電磁トランスに比べ電力密度が25.3W/ccと約5倍大きい性能を持っています。つまり、同じ電力ならば、体積を1/5に押さえることができるわけです。
 コンバータとして実現するためには、他のデバイスの小型化などいくつか問題点を残しますが、最大の問題であったトランスの小型化が図られたことにより、この方面の開発が加速されることが期待されます。なお、本研究は科学技術振興調整費総合研究「セラミックスインテグレーション技術による新機能材料創製に関する研究(研究代表者:羽田肇)」の一環として行われました。
(本研究成果は、日刊工業新聞、日本工業新聞、日経産業新聞、科学新聞、常陽新聞の各紙に掲載されました。)

図 開発した圧電トランス
輪郭拡がりモード圧電トランス(右)、およびそのケーシング(左)
圧電トランスの形状は縦、横ともに14mm、厚さ6mmと同等出力の
電磁トランスに対して、1/5の小型化が図られている



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