水の奇妙な振る舞いを解き明かす、
「二つの水」の臨界点

物質研究所
独立研究グループ
三島 修



 私たちにとって水が重要であることは言うまでもありません。水はありふれているので、その性質はよく理解されていると思われるかも知れません。しかし、水の体積が4 ℃で最も小さいことなど、水の性質は未だに謎に満ちています。
 十数年前、私たちは氷の結晶構造を低温で押し潰して無秩序にし、更に、圧力の高低によって水に二つのガラス状態(水が低温で硬化した状態:アモルファス氷)のあることを見つけました(表紙写真下参照)。二つの密度差は約20%です。この非結晶の多様性(ポリアモルフィズム)が水を理解する鍵と考えています。つまり、水のシミュレーションでも示されるように、これら二つのアモルファス氷の温度を上げると二つの水(低圧の低密度過冷却水と高圧の高密度過冷却水)になり、境界圧力で相分離を引き起こし、臨界点と呼ばれる圧力温度より高い温度で二つの水は混じり合って一つになると考えています。私たちは数年前、水に臨界点が存在する可能性を実験的に初めて示し、その位置を500気圧、−60℃近傍と見積もりました(図参照)。
 しかし、水の臨界点の存在は厳密には証明されていません。これは、過冷却水の実験が難しく、またガラス状態の理解が一般に遅れているためです。この仮説の真偽について今も論争が続く一方で、実験的・理論的証拠は着々と集積しています。英国科学誌ネイチャーに掲載された私たちの最新の実験結果は、二つのアモルファス氷の間の転移が確かに不連続なことを強く示しており、水に臨界点が存在することを強く支持しています。
 単純な物質の液体−液体臨界点はこれまでに例がなく、水の臨界点は物質の新しい概念を確立します。臨界点は広い圧力温度の水の性質に影響を及ぼし、更に、雲の生成や生物の体内にある水の性質にも影響を与える可能性があります。なお、詳細はホームページ(http://www.nims.go.jp/water/)をご参照下さい。
(本研究成果は、日刊工業新聞、日本工業新聞、科学新聞の各紙に紹介されました。)

図 予想される水の圧力温度相図



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