ナノテク総合支援

人工角膜と角膜再生技術の開発

生体材料研究センター
細胞基盤技術グループ
岡野 光夫

 

生体材料研究センター
人工臓器材料グループ
小林 尚俊



 角膜に混濁や潰瘍といった不可逆的な病変が生じた場合には、角膜移植が行われます。角膜移植は、献眼により支えられています。年間約2万人が角膜移植の対象疾患で移植治療を待っていますが、角膜移植は僅か1600人程しか行われておらず、その供給量は絶対的に不足しているのが現状です。また、移植用の角膜は、すぐに入手が困難であり、免疫による拒絶反応を受けるケースがあるなどの問題点もあります。
 NIMSでは、角膜移植に頼らない角膜治療材料の開発を目指して研究を行っています。
 1つ目は、合成高分子を用いた人工角膜デバイスの開発です。安価で簡便に手術ができ10年以上視力が確保される材料を開発することが目標です。ポリビニルアルコールをジメチルスルフォキシド/水の混合溶媒系で低温結晶化法を用いて処理し、光透過性の優れた高強度含水ゲルを作製します。このハイドロゲルに、接着性ペプチド、蛋白質等を固定化することで細胞接着性を付与することができます。この材料で人工角膜デバイスを試作し、その辺縁部分にさらに無機-有機複合化技術を用いて組織接着性を向上させ長期間安定に機能する人工角膜デバイスの開発を行っています。
 2つ目は、完全な角膜代替物を得るために、材料技術に加え、組織工学、分子生物学、細胞工学技術を駆使した角膜再生技術の開発を行っています。32℃付近にLCST(曇点)を持つ感温性ポリN-イソプロピルアクリルアミドを表面グラフト重合により固定化した培養皿を用いた場合、37℃の培養条件下では培養皿表面が疎水性となり細胞は接着し増殖します(表紙写真上参照)。一方、32℃以下にすると固定化した高分子が水和し細胞付着面が親水性に変化することで細胞は付着できずにシートのまま回収されます。これまでの酵素法では、細胞がばらばらになり細胞機能を著しく低下させていました。培養した細胞の機能を維持したまま細胞をシート状で回収することが、この技術により可能となりました(図1参照)。現在1つの角膜から多数の角膜を再生させる研究(図2参照)を進めています。
これらの研究により、より効果的にしかも安全に角膜治療が行える日が来ることが期待されます。

図1 20℃で細胞間の結合を維持したまま
温度応答性表面から脱着している細胞シート

図2 細胞シート工学による角膜再生技術



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