Ti2AlNb系合金の室温延性向上
−分散第2相を利用した結晶粒径制御−

材料研究所
高比強度材料グループ
江村 聡



 斜方晶系の金属間化合物相である
Ti2AlNb相(O相と呼ばれています)を主体としたTi2AlNb系合金は高温での機械的性質に優れていることから、航空宇宙分野などへの実用化に向けて近年研究が進められています。本合金では特にクリープ特性(高温で長時間、一定の負荷に耐える能力)に優れた金属組織とするために、高温相であるB2相(立方晶系の規則相)単相の温度で保持後ゆっくりと冷却するという熱処理が施されます。これによって、いわゆるラメラー組織と呼ばれる、O相とB2相とが層状に並んだ粗い金属組織が形成されます。しかし一方で、この高温での熱処理の際に結晶粒が粗大化するため、室温での延性が十分得られませんでした。材料の信頼性の観点からは、室温延性は10%以上あることが望まれます。
 今回、私たちのグループでは、Ti2AlNb系合金のクリープ特性と室温延性の両立を図る目的で、本材料の結晶粒径制御に取り組みました。具体的にはB2相単相の温度領域の直下にB2相と第2相であるα2相(六方晶系の規則相)の2相が共存する温度領域があることに着目しました。そこでこの温度領域で材料を圧延し、さらにこの温度領域で保持するという加工熱処理を行ったところ、球状のα2相がB2相中に均一微細に分散していることを見出しました(図1(a))。このα2相は結晶粒の成長に対する障害物として働くため、この状態からゆっくりと冷却することで、細かい結晶粒で、かつ粒内はクリープ特性に優れたラメラー組織が得られます(図1(b))。
 このような熱処理プロセスを施すことで、Ti2AlNb系合金の結晶粒径を10μm以下にまで微細化することができ、室温での延性も最大で約15%まで向上しました(図2●)。
 今後は今回の成果を基礎に、クリープ特性、低サイクル疲労特性および室温延性がともに優れた最適結晶粒径、最適粒内組織を明確にし、新たなTi2AlNb系合金の開発に取り組んでいく予定です。

図1 (a)B2相中にα2相が均一微細に分散した状態
   (B2相の平均結晶粒径は7.8μm)
   (b)ゆっくり冷却した後のラメラー組織

図2 Ti2AlNb系合金の室温延性に及ぼす平均結晶粒径
   の影響(青丸が粒径10μm以下の材料)



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