新しい水素ドーピング法により
酸化亜鉛の紫外発光高効率化に成功

物質研究所
スーパーダイヤグループ
石垣 隆正

 

物質研究所
電子セラミックスグループ
大橋 直樹



 省エネルギー型のディスプレーや、高密度記憶デバイスに必要な紫外発光素子の実現には、高効率な紫外線発光体が必要です。酸化亜鉛(ZnO)は高性能な青緑色蛍光体として利用されてきました。近年、この ZnO で高効率の紫外発光を実現するための研究が活発に行われています。ZnO の紫外発光効率向上には、水素ドーピングが有効であることが判明しており、ZnO に高濃度の水素をドープする手法の開発が急務でした。
 水素ガス中での熱処理では酸化物は還元され、また、高温下では水素の脱離がおこるため、比較的低温で水素ドーピングを実施する必要があります。私達は、パルス変調した高周波誘導プラズマ( ICP )を発生し、ここで生じた水素ラジカル(原子状の水素)をZnOに照射することにより、ZnO 中への高濃度(数十ppm )の水素ドーピングを可能にしました。
 ICP は高活性化学種の発生源となりますが、従来、定常的に高周波電力を供給して発生する連続モード ICP のみが使用されてきました。連続モード ICP による水素ラジカル照射では、被照射物への熱の蓄積が問題となり、ドープ量や被処理物の形態に制約がありました。これに対し、パルス変調 ICP による水素ラジカル照射では、プラズマ発生のための投入電力をミリ秒単位でパルス変調する(例えば、オン/オフを5ミリ秒間隔で繰り返す)ことでプラズマの熱エネルギーを制御し、被照射物への熱ダメージを抑制します。この新しい手法により、ZnO 中への高濃度の水素ドープが可能になりました。
 図に多結晶 ZnO のフォトルミネッセンスを示します。未照射試料では格子欠陥由来の緑色発光(波長 530nm 付近の幅広のピーク)が認められました。連続モード ICP による水素ドープでもこの欠陥発光が消失し、375nmの紫外発光強度が増大しました。さらに、パルス変調 ICP 照射を施すと、未照射試料と比較して 15倍以上の紫外発光強度が実現され、大幅な発光効率の向上が見られました。今後、この技術を広く応用することで、紫外発光素子に新たな展開が期待されます。
 本研究は、科学技術振興調整費総合研究の一環として行われました。
(本研究成果は、日経産業新聞、日本工業新聞、日刊工業新聞、科学新聞に紹介されました。)


図 プラズマ照射による多結晶ZnOのフォトルミネッセンスの変化




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