エコマテリアル研究
エコマテリアル
− 21世紀の課題と展望 −

エコマテリアル研究センター
センター長
原田 幸明



 今年の4月、新たにエコマテリアル研究センターが発足し、研究活動をスタートさせました。「エコマテリアル」とは、地球環境問題に配慮しつつ、その解決に貢献する材料のことです。21世紀は、環境の世紀といわれています。世界中も CO2等削減の京都議定書の実効や、今年9月のヨハネスブルク環境サミットなど環境に調和した「持続可能社会」への方向に歩みだしています。従って、エコマテリアル研究センターをスタートさせたことは、これまでさまざまな形で進められてきた材料技術による地球環境問題への貢献を、より鮮明な形で、また、具体的に進めていくうえでのネットワークを作っていく大きな一歩を踏み出したと考えています。
 では、材料技術が直面している地球環境問題や持続可能社会へ向けて期待されている貢献にはどういうものがあるのでしょうか。まず問題となるのはなんといっても使用している量の多さです。国内だけでも年間約24億トンの資源が消費されています。これはひとり一月あたり約2トンになるわけです。この中から燃料と食料、水分を除いた毎年約18億トンが材料として社会の中に広がっています。これは一世紀前の数十倍の規模です。しかも、これらの材料を造るために海外でその数倍以上の鉱石や天然資源を採取し、さらに多大なエネルギーをかけて材料にしているのです。ですから我が国の CO2発生だけ見ても素材産業関連で1/4も占めています。このようにものを多量に使う社会に私たちは慣れてきました。
 図1は直接の資源だけでなく採掘時に掘り返される土壌などトータル資源消費の年間量を主要な成分毎に示したものです。参考に霞ヶ浦の水の量も示してあります。世界中で各種金属を産出するために必要な関与物質の総量は、金で霞ヶ浦5杯分、鉄では3杯分と膨大な地球資源が消費されています。さらに、将来においても、材料技術が現状のままのケースで燃料電池用触媒や廃熱発電用熱電素子が広く普及するようになると、図中の赤で示すように鉄に匹敵するようなトータル資源の消費に結びつきます。
 しかし、現在の生活レベルを下げ、これから発展しようとする国々の成長を抑えることには誰も同意しないでしょう。そのために、限られた資源を有効に使い、物質や材料の中にある高い機能や特性を引き出すことで、資源やエネルギーの投入量を極力抑えていく資源生産性が高く、かつリサイクル性に富む材料技術が求められているのです。
 物質や材料が直面しているもうひとつの環境の問題は、さまざまな有害物質の氾濫です。
人類は生産量を増やすとともに、新しい物質を取り出したり生み出したりしてきました。それらが十分に管理できずに地球環境や人体に悪影響を与えているケースがよく報じられています。また、ハンダ中の鉛のように IT 技術の発展に伴ってますます管理しにくい状態で生活の中に拡散していくケースも見られます。中には自動車ボディー用鋼板のクロムめっきのように、使用しているときには安全でもシュレッダー処理などで微量な有害物質になる可能性も問題にされます。
 このような中で、これまで便利だから使っていた物質も使用後に地球環境に害を与えないか否かを考え、害を与える可能性があればそれを別のものに置き換え、リサイクルなどの工程で取り出せるようにしていく工夫が必要になります。特にこれから世界中に普及していく半導体デバイス関連の材料には廃棄されたときの有害性やリサイクルを考えた物質の設計や選択が重要です。また、いったん環境に出されたものをきれいにしていく環境浄化の役割も物質・材料技術の役割です。特に最近の環境汚染は高濃度のものが一挙に排出されるのではなく、極微量でも有害な物質が生活のあちこちに存在するようになっています。そのために浄化する物質の方では、微量の有害物質を的確に認識しそれらを効果的に反応させていくことのできる高性能の環境浄化物質が求められています。
 このような持続可能社会を目指すための材料の課題にみなさんと一緒に応えていこうとするのがエコマテリアル研究センターです。
 エコマテリアル研究センターの構成を図2に示します。まず、ここまで述べたような話の基礎となる資源利用や材料に関わる環境負荷の基礎データや手法を明らかにしていき、さらに持続可能な社会にふさわしい循環型の材料プロセシングを研究していくのが環境循環材料グループです。また、エコデバイスグループでは、急速に発展しているIT技術に対して、有害物質フリーやリサイクル性に富むデバイス実装技術の実現に向けて研究を進めています。このような循環材料やエコデバイスは、地球環境問題に対応するための材料技術の新たな課題であり、それを解決するために広く知識を集め、新しいアイデアを生み出すための結集点としてエコマテリアル研究センターが貢献していきたいと考えています。
 一方、環境負荷の少ないエネルギーや環境浄化機能物質などは、これまでもさまざまなところで研究が進められていますが、冒頭に示した資源生産性と今後のアジア諸国などの広範な普及を考えると、従来の特性の改善だけでは不十分であり、飛躍的な機能の現出が期待できる物質の探索が必要です。環境エネルギー材料グループでは、水素機能材料や熱電材料、固体電解質(燃料電池用)などを対象に、環境浄化材料グループでは、光触媒反応やホストゲスト反応などの環境浄化や環境応答を対象に探索的研究を進めていきます。
 地球環境問題の大きさに対してまだまだ私たちは微力です。多くの方々と協力して持続可能社会に貢献する物質・材料技術の開発に努力し、当センターがそのネットワーク作りの足がかりになればと考えています。


図1 関与物質総量で表した現在の資源消費と今後の機能素材の普及ケース




図2 エコマテリアル研究センターの構成




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