高窒素ステンレス鋼の新しい展開
-材料強度に優れた先進耐食材料-

超鉄鋼研究センター
耐食グループ
片田 康行



 超鉄鋼プロジェクト(STX-21)の一環として「耐海水性ステンレス鋼の開発」が進められています。これは、高濃度の窒素添加と素材の高清浄化を同時に実現することにより海中でも腐食しない新しい耐食性ステンレス鋼の創製を目指したものです。そのために必要となる窒素ガス加圧式ESR(Electro-Slag Remelting)装置を国内で初めて開発し、窒素ガス圧4MPaで、Fe-23%Cr-4%Ni-2%Mo-1%Nの高清浄高窒素添加ステンレス鋼(酸素含有量:<20ppm)の試験溶製に成功しました。この材料は、実海水環境下で5ヶ月以上にわたりすき間腐食を起こさないなど優れた耐食性を示すことがわかりました。
 次に、その機械的性質を調べてみました。
図1は、溶体化処理された23%Cr系高窒素添加ステンレス鋼(HNS)の伸びと引張強さを文献から得られた各種鉄鋼材料のものと比較したものです。図より、γ単相の高窒素ステンレス鋼の伸びはSUS304鋼とほぼ同等で、かつ引張強さは1200MPa以上のものが得られています。またこのような特性は-196℃〜500℃の温度範囲でも同様であることがわかりました。これらのことから本高窒素ステンレス鋼は耐食性のみならず強度の面からも極めて優れた材料であることを示しています。
 図2は、本モデル材についてシャルピー衝撃試験を行った結果で、シャルピー衝撃値と脆性破面率の温度依存性を示したものです。一般にSUS304鋼(▲)のようなγ系ステンレス鋼は図のように、明瞭な遷移温度を示さないのですが、この高窒素鋼(■)はγ系であるにもかかわらず明瞭な延性脆性遷移温度(-50℃)を示すことがわかり、低温側での使用には注意が必要であることがわかりました。
 高窒素ステンレス鋼の特長の一つに、高濃度窒素を添加することによりニッケルフリーのγ系ステンレス鋼の創製が可能になることがあります。今後、高窒素ステンレス鋼はニッケルアレルギー対策材料として、生体・医療関連分野への応用が期待されています。


図1 高窒素添加ステンレス鋼の機械的性質



図2 高窒素添加ステンレス鋼のシャルピー衝撃試験結果




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