金属ナノ粒子分散材料
-負イオン注入法による非線形光学材料設計-

ナノマテリアル研究所
ナノファンクショングループ
武田 良彦



 ステンドグラスなどで古くから知られている色ガラスは、近年、光学非線形性が大きいことで新たに注目を集めています。この色ガラス材料は、ガラスなどの絶縁体中に直径数十ナノメーターの金属や半導体の微粒子が分散しているもので、光の波長よりも粒子サイズが小さいために特異な光学的性質を発現します。
 この材料にレーザー光を照射すると、ナノ粒子内の電子が励起され誘電的性質が変化し、その結果、巨視的には光の強度によって屈折率が大きく変化する非線形性として現れます。この非線形性はピコ秒オーダー(1ピコ秒は1兆分の1秒)で反応するため、超高速の光スイッチングなどへの応用が期待されています。さらにナノ粒子表面での光増強効果はナノスケールのフォトニックデバイスへの応用も期待されます。しかしながら、非線形性を示す波長領域が限られるため、デバイス応用に際してはその波長を光通信等の波長バンドに一致させる光学設計が必要となります。これをイオン種と誘電体基板の多様な組み合わせが可能なイオン注入法で実現しました。
 イオン注入法は高エネルギーで加速したイオンを基板材料に打ち込むもので金属ナノ粒子作製の有力な方法の一つです。平衡状態の固溶度を越えた非平衡な原子導入が容易にでき、負イオンは注入時の表面帯電を抑制するため、精密で効率的な原子導入が可能になります。これらの特長を生かし、様々な基板中にナノ粒子の自発形成が可能となります。
 図は石英ガラス(SiO2、屈折率n=1.50)、スピネル酸化物(MgAl2O4、n=1.72)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3、n=2.29)に銅(Cu)負イオンを注入して作製した試料のレーザー励起による非線形光吸収スペクトルを示したものです。光吸収は図のように大きく減少しますが、その後数ピコ秒で速やかに回復します。この挙動は各種基板中での金属ナノ粒子形成を示すものです。また基板の屈折率の違いにより、非線形光吸収バンドがシフトしているのが分かります。これは基板選択によって特定の波長に合わせる材料設計が可能なことを示しています。この他にも2次元的なナノ粒子配列制御、基板種によるナノ粒子形成の違いや基板の格子欠陥が非線形応答に及ぼす影響等実用化に向けた重要な研究も推し進めています。


図 ナノ粒子材料の非線形光吸収




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