計算材料科学研究

シミュレーションによるナノ組織予測
-より良い磁性材料の組織を求めて-

粒子・統計熱力学グループ
小山 敏幸



 材料の諸特性(強度や磁気特性等)はその内部構造によって様々に変化します。逆に材料の内部構造を自由に制御できれば必要な特性を持つ材料の設計が可能となります。本研究では材料の内部組織を計算機シミュレーションにより予測・解析するシステムの構築を目指しています。計算方法は「フェーズフィールド法」と呼ばれる新手法で、これは組織の形態を濃度や規則度等の複数の変数にて表現し、その時間・空間変化を発展方程式に基づき計算して、組織形成過程を解析する方法です。
 右図は高温にてFe,Cr,Co原子を均一に固溶させた単相を、低温の2相領域に保持した時の相分解計算例(ニ次元)です。濃度を色で表現し、Fe,Cr,Co 100%をそれぞれ赤,緑,青として、中間の濃度はこれら3色を濃度で重み付き平均して表しています。各図左上の数値は無次元化した時間です。
 (a)と(b)は873Kおよび913K保持の結果で、(a)では初期にCrが濃化した非磁性相(緑色)が粒状に析出しますが、(b)ではFeとCoが濃化した強磁性相(青紫)が粒状に現れます。通常、強磁性相が非磁性相で細分化された組織が優れた磁気特性を示しますので、この場合(b)が良い磁性材の作成条件にかなっています。本合金は実用磁性材料で、温度により(a)から(b)へ組織形成が変化することが既に実験的にも確認されています。
 さらに棒状の強磁性相を配列させることによっても、磁気特性は向上することが知られています。(c)は外部磁場下で(b)と同条件で相分解させた結果で、析出相形態が外部磁場方向に揃っていく様子がわかります。これ以外にも各種の相変態の解析が可能で、例えば口絵は多結晶におけるマルテンサイト変態の二次元シミュレーションで、双晶の集団的な形成過程が計算されています。

図 Fe-Cr-Co合金の相分解の計算機シミュレーション


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