計算材料科学研究

スピン・電荷協調で起こる超伝導
-機構解明から物質設計へ-

強相関モデリンググループ
田中 秋広

 

強相関モデリンググループ
胡 暁



 絶縁体の銅酸化物を舞台に起きる高温超伝導が発見されたのは1986年。今なおそのメカニズムは確立していませんが、これまでに蓄積された知見をヒントに、物質設計への理論指針、更には新しい量子デバイス等への応用を視野に入れたミクロなレベルでの探究が可能な段階に入ってきたように思えます。そのような方向を見据えた私達の取り組みを紹介します。
 電子は、『電荷』と『スピン』の二つの属性を併せ持ち、それぞれ電気と磁性を担います。銅酸化物では超伝導の前駆現象として、電子スピン間の連携によって磁性を消し去った状態(スピンギャップ相)を作ることが知られており、ここにホール(電子の居ない箇所)を導入することで超伝導が実現します。謎多きこのスピンギャップ状態のどこかに超伝導発現の鍵があると研究者の多くは見ています。そこで私達は少し視点を変え、周辺物質で、しかもスピンギャップ状態の性質の理解がより進んでいる物質をターゲットとし、そこにホールを入れたときの影響を理論的に調べることにしました。具体的な対象としてCuGeO3に代表される擬一次元スピンパイエルス物質を選びました。結論はこの系でもやはり超伝導は起き得るというもので、図1及び図2ではそのからくりを高温超伝導と同じ二次元系に置き直し、2段階に分けて模式的に示します。(1)まず磁性の無い舞台にホールが一個登場すると局所的に(橙色の領域)磁性(反強磁性)が回復します。量子力学によればホールは上向き、下向きのスピンのどちらかとの位置を交換しながら動くことができれば、エネルギーを稼ぐことができます。それが、この磁性の「スポットライト」のお蔭で可能となります。(2)この結果、2種類(↑スピンと↓スピンに対応)のホールが生じますが、それらは分断するボンド(スピン間相互作用)の数を減らすために隣り合って対で行動をし(図2)、よりエネルギーを稼ごうとします。この対がいわゆるクーパー対で、超伝導の担い手となります。
 他のスピンギャップ物質におけるこのシナリオの適用の可否も、非磁性不純物をまぜて不純物周りに束縛されたホールを導入したときの系の応答を見ることで検定できます。不純物の付近で磁性(スポットライト)の生じた物質は超伝導体の候補となるわけです。このように高温超伝導から派生した物理描像は、物質設計への重要なヒントを提供してくれます。


図1 ホール(赤丸)の運動.周りに発生する
スピン(コマ)を目印に進路を選ぶ

図2 ホールが2個入った場合、ホールが離れている(左図)より、隣り合う(右図)方が、エネルギーを損するボンド(緑線)の数を減らすことができる



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