計算材料科学研究

MgB2の圧力下での電子状態

第一原理反応グループ
小林 一昭



 2001年初頭に発見された新たな超伝導物質MgB2は、マグネシウム(Mg)とホウ素(B)というごくありふれた元素からなり、安価でかつ合成が容易なことから、電線など線材への実用化が期待されています。我々は様々な環境下でのMgB2の物性の変化、特に圧力を加えた場合の電子状態と格子の変化について、第一原理計算と呼ばれる手法を用いて研究を行っています。
 圧力の加え方は、全ての方向に等しく圧力を加える静水圧圧縮、c軸(図1の縦方向に相当)圧縮、a, b軸(図1の横方向に相当)圧縮の三つを試みました。いずれの圧縮でも、その加えた圧力に応じて格子の長さが変化しますが、この時電子状態の変化の仕方には、圧力の加え方によって差が生じることがわかりました。静水圧を加えた場合電子状態はあまり変化しません。一方、c軸圧縮や、a, b軸圧縮のような等方的でない圧力を加えた場合には、電子状態に顕著な変化が見られます。その変化の様子は、電子のとりうる状態をエネルギーで表した、バンド構造と呼ばれるチャートを計算することにより解析することができます。
 図2にa, b軸圧縮をかけた場合のバンド構造の変化を計算した結果を示します。電気伝導などの物性は、青い線で示したフェルミ面と呼ばれる位置でのバンド構造の形に大きく左右されます。ここでは、図に赤で示した部分のバンド構造が大きく変化しています。実験的には静水圧圧縮では超伝導転移温度は下がることが報告されていますが、格子振動の解析結果と併せると、a, b軸圧縮では超伝導転移温度が上がる可能性があると筆者は考えています。
 今回の結果は、超伝導機構の解明や超伝導特性の向上を行っていく上で、基礎的知見の一つとなるものと期待されます。

より詳細な内容にご興味のある方は、是非下記URLに挙げました参考文献などをご参照ください。
http://aml.nims.go.jp/staff/kobayak/MgB2/mgb2.html


図1 MgB2の構造.格子パラメーターaexp,cexpは実験値
(括弧内の数値は計算値)

図2 a, b軸圧縮によるバンド構造の変化



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