計算材料科学研究

ナノ構造選択形成への理論的提案
-ミスフィット転位による歪み場を利用して-

第一原理物性グループ
小山 紀久

 

第一原理物性グループ
大野 隆央



 ナノデバイスの作製技術の確立は今世紀の産業界のキーポイントとなっています。その実現のためにこれまで多くの研究がなされ、現在ではナノ構造を基板上にいかに選択的に制御性よく配列させるかが重要なテーマとなっています。現在確立されているのは主にレジストマスクを使用した方法で、基板上に作製されたパターン上でナノ構造を選択的に形成させるものです。しかしこのプロセスは煩雑で多くの時間を要するうえに、機械的な欠陥が入り易いためデバイスに悪影響を与えます。こうした問題を解決するために候補として考えられるのが歪みを利用した成長法です。本研究ではInAs/GaAs(110)界面に周期的に形成されるミスフィット転位と呼ばれる界面における原子列のずれに注目しました。
 図1は第一原理計算によって得られたInAs/GaAs(110)界面の構造です。計算から、[001]方向に伸びる転位線の上方では周囲の領域と比較して格子歪みが緩和されることが分かりました。つまりInAs表面にはボンド長の大きな領域と小さな領域が周期的に存在するわけです。これを利用することにより、新たに形成するナノ構造の位置をそのボンド長の大小でコントロールできることが期待できます。そこで実際に分子線エピタキシー(MBE)法ならびに走査型トンネル顕微鏡(STM)を使用してナノ構造の選択成長の可能性を検証してみました。
 図2はMBE装置でGaAs(110)基板上にInAsを5原子層成長させ、その上にGaを0.5層分成長させたときのSTM像です。[001]方向に周期的かつ平行に見える暗いコントラストはミスフィット転位に起因する表面の凹みを示しており、表面を覆うドットが形成されたGa液滴です。粒径5nm程度のGa液滴が転位に対応する暗いコントラスト上に優先的に形成されることが分かりました。このように形成の選択性が確認されましたので、成長条件をさらに煮詰めることによって歪みを利用したナノ構造の選択成長は実現可能であると考えられます。


図1 第一原理計算によって得られた
InAs/GaAs(110)ヘテロ界面構造

図2 InAs/GaAs(110)上に成長させた
Ga液滴のSTM像




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