計算材料科学研究
物質・材料開発の基盤充実を目指して

計算材料科学研究センター長
小野寺 秀博



 近年の電子計算機、情報処理技術の発達は目覚ましいものがあります。2002年にはピーク演算性能40テラフロプス(1秒間に40兆回の演算速度)の「地球シミュレータ」が開発され、2010年にはペタフロプス(テラフロプスの1000倍)時代へ移行する兆しがあります。また、情報処理技術の発達も著しく、ネットワーク技術を用いて、各地に分散する計算機資源を有効に活用するグリッド計算技術の研究開発、さらにはグリッド研究構想も生まれています。
 このような計算機の発展を背景にして、計算科学シミュレーション技術は大規模化・高精度化を押し進め、単純な原子・分子や単結晶のシミュレーションから複雑な多数原子系のナノスケール構造のシミュレーションへと、その視野を広げつつあり、物質・材料分野における計算科学手法の有効性、必要性は益々大きなものとなりつつあります。特に、近年最も期待される科学技術分野であるナノテクノロジー、ITでは更に一層の計算科学の貢献が必要とされています。そこで、物質・材料研究機構では、平成13年4月独立行政法人化を機に、物質・材料研究の基盤技術として集中的な研究を行うため、同年10月に計算材料科学研究センターを発足させました。
 計算材料科学研究センターでは4つの研究グループを設定し(図1参照)、性能の改善や新奇な特性の材料開発を効率的に行うための基盤技術として、計算材料科学手法の確立を目指しています。特に、これまでに経験の蓄積のない新奇な特性の探索には、仮想の構造の特性予測を量子力学に基づき、数少ない仮定の下で行える第一原理手法の適用が極めて有力です。第一原理物性グループでは、表面・界面での物質形成過程の微視的な機構解明、半導体デバイス、有機分子、超微粒子などのナノスケール構造物質の示す伝導特性、触媒機能等の量子機能の解析を行っています。第一原理反応グループでは、酸化物形成など物質・材料の反応・形成諸過程及び基礎的物性の電子論的な解明・予測、制御法の理論的探索を目指しています。強相関モデリンググループでは、超伝導現象や磁気現象のような、多体相互作用が本質的な役割を果たす協力的物性現象の理論解明を目指しています。
 一方、材料性能の改善や最適化のためには、実際の材料に近い規模の原子集団を扱う必要があります。そこで、粒子・統計熱力学グループでは、経験的な原子間ポテンシャルを用いた粒子シミュレーションや統計熱力学解析手法により、相変態、析出等の諸現象に関して、機構解明とともに特性の予測を目指しています。図2はクラスター変分法(CVM)を用いることにより、原子の配置までを考慮して計算したTi-Al二元系状態図で、原子の規則配列が特性の重要な支配因子であるTiAl金属間化合物材料の設計に不可欠なものです。現在、この平衡状態の予測をさらに発展させ、析出相の形態とその時間変化を追跡できる組織設計手法の開発を推進しています。
 また、開発された手法やソフトウェアなどの成果を広く普及し利用の促進を図ることも重要です。そこで、当センターでは、開発されたシミュレーションプログラムについて、インターネットを介して広く公開するための仮想実験システムの構築を目指したプロジェクト研究を推進しています(図3参照)。
 本特集では、各グループの最新の研究として、ナノデバイスへの応用を目指した原子配線や超伝導材料に関する研究、フェーズフィールド法によるナノ結晶組織予測手法に関する研究を紹介します。


図1 計算材料科学研究センターの組織

図2 CVMによるTi-Al二元系計算状態図



図3 仮想実験プロジェクト研究




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