世界で初めてホウ素系新超伝導物質のコイル化に成功

超伝導材料研究センター
酸化物線材グループ
熊倉 浩明



 2001年1月に日本で発見された二硼(ほう)化マグネシウム(MgB2)は、超伝導臨界温度(Tc) が金属系材料として世界最高の39Kと優れ、また、マグネシウム(Mg)とボロン(B)からなる比較的簡単な化合物であり、合成が容易で資源的にも豊富であるという特徴があるため、世界中の研究者が実用化に向けて活発な研究開発を行っています。
 当機構では、これまでMgB2粉末を高強度の金属で被覆し、圧延などで線状に加工することにより、熱処理無しで一平方センチメートル当たり45万アンペアの高い臨界電流が得られる線材作製法を開発しました(本誌2001年7月号参照)。この方法では、安価な金属材料を利用でき、かつ、熱処理不要なことから、従来の超伝導線と比較して製造工程の短縮や低コスト化が期待されます。
 今回はこの成果を発展させて、(株)日立製作所日立研究所と共同で10m級の線材を製作し、これを用いて、世界で初めてMgB2の超伝導コイルを試作し、磁場発生を確認しました(写真)。線材はMgB2粉末を金属管に充填し、これを加工することにより作製しました。熱処理は一切行っていません。この線材をコイルに巻き、液体ヘリウム中で励磁試験を行ったところ、105アンペアの超伝導電流を流すことができ、そのときの発生磁界は0.13テスラでした。
 今回の技術によれば、安価で高強度な線材製作が可能になるほか、超伝導線やコイルの製造工程が大幅に短縮でき、絶縁など周辺技術の低コスト化も容易と考えられます。
 今後の実用化までには、キロメートルレベルの長尺化技術や超伝導接続技術などの開発が必要ですが、MgB2の高い超伝導転移温度を利用することにより、熱的に安定で、高い信頼性を持つ永久電流スイッチ素子などへの応用が期待できます。また、将来、線材の特性改善やコイルの大型化によって数テスラの発生磁界が得られるようになれば、医療用MRI画像診断装置用のマグネットなどに適用する道も開け、装置の低コスト化や長期運転時の信頼性向上に大きく貢献すると期待されます。
(本研究成果は、読売、毎日、朝日、日刊工業、日本工業、化学工業日報などの各紙に紹介されました。)

写真 MgB2系超伝導コイルの外観




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