Ni3Al冷間圧延箔の作製
-脆い金属間化合物で薄い箔の作製に成功-

材料研究所
高比強度材料グループ
平野 敏幸



 金属を紙のように薄く延ばしたものを箔と言い、この性質を展性と言います。ほとんどの金属間化合物は脆いので、展性はありません。高温強度、耐酸化性、耐食性に優れたNi3Alも脆く、今までは箔を作るなど考えられなかったのですが、一方向凝固することで厚さ55μmの箔に冷間圧延できるようになりました(NRIM NEWS 2000年4月号)。最近では、表紙写真下のように、厚さ23μm、幅50mmの冷間圧延箔ができるようになりました。これは家庭用のアルミニウム箔とほぼ同じ薄い箔です。
 Ni3Al箔は90%以上の強冷間圧延を受けているので、ビッカース硬度(硬さを示す単位)は600以上(鉄の4倍程度の硬さ)と非常に硬くなっています。室温の引張破断強度も、図1のように、2GPaの高い値を示します。伸びはほとんどなく、弾性変形領域で破断します。Ni3Al箔は脆い材料かと思われますが、図1挿入図のように、90°以上曲げることができます。曲げ変形では脆くないのです。曲がった箔の外側は引張塑性変形をしており、その伸びは最大12%と見積もることができます。一軸引張変形で伸びない箔が、なぜ曲げ変形ではこれほど伸びるのかを、現在検討しています。
 耐熱性に優れたNi3Al箔の高い破断強度と曲げ加工性を活かし、(株)日鐵テクノリサーチと共同で軽量耐熱ハニカム構造体の開発を行っています。図2はレーザー溶接を用いて試作したハニカム構造体です。空隙の多いハニカム構造は、バルクでは望めない軽量化、高剛性が期待できます。
 今後の主要研究課題は、箔の接合部が溶接割れを起こさず、高い強度となるように溶接条件を制御することや、ハニカム構造体の機械的性能を実証することです。
 薄いNi3Al箔にすると、ハニカム構造体の他に、自動車の排ガス浄化装置の触媒担体、マイクロケミカルリアクターなど化学機器への利用が可能になります。前者は、NEDO産業技術研究助成事業として研究を進めています。後者は、オレゴン大学と共同で、レーザーを用いてNi3Al箔表面に微細チャンネルを形成する研究を行い、対向流型マイクロケミカルリアクターの試作に成功しています。



図2 レーザー溶接を用いて試作した
トラス型ハニカム構造体

図1 95%冷間圧延箔(厚さ95μm)の
引張試験と曲げ試験後の外観

 



トップページへ