新世紀耐熱材料プロジェクト
ミクロ組織解析と材料設計

設計解析チーム
大沢 真人



 設計解析チームでは、耐熱材料のミクロ組織とその使用中における変化に着目し、これらよりマクロな材料特性を予測する手法を開発し、より高性能・低コストの材料を効率的に開発していくことを目的として研究を行っています。
 具体的には、耐熱材料の構成相の化学組成や結晶格子の大きさの違いが材料のクリープ寿命に及ぼす影響等の物理的特性値の測定、異なった特徴を有する複数の耐熱材料を対象としたミクロ組織変化の系統的な観察、最近有望視されている「耐熱合金への白金族元素の添加」に必須な情報であるNi-Al-白金族系の熱力学計算、耐熱合金の変形挙動における直接計算の第一歩としてNi-Al 系合金の転位による変形の分子動力学計算によるシミュレーション、Ni基超合金の構成相の化学組成や結晶格子の大きさ、有害相析出の有無、材料のクリープ寿命等の材料特性予測およびこれを用いた新材料設計等を行っています。
 最近の研究成果の一例として、代表的な第3世代Ni基単結晶超合金のひとつであるTMS-75の構成相γ相、γ'相のそれぞれの弾性定数の測定結果を図に示します。Ni基超合金は、航空機をはじめ産業用に使用されている重要な耐熱材料で、外部応力に反応して自己組織化することが優れた高温強度の発現メカニズムであることが知られています。この自己組織化は、構成相であるγ相とγ'相の作り出す内部応力場と、実使用時に外部より加わる応力とにより形成される合成応力場の異方性が原因となって生じていると考えられます。この合成応力場を予測するためには、γ相、γ'相の格子定数・弾性定数が必要ですが、γ相とγ'相の弾性定数に関してはほとんど実測が行われないまま、議論や計算がなされてきました。図に示した実測結果より、γ相とγ'相の<100>方向のヤング率は温度依存性が異なっており、高温になるほどその差が大きくなっていることがわかります。また、両相の<100>方向のヤング率は室温と高温で逆転すると考えられてきましたが、合金によってはこの逆転が起きていないことも明らかになりました。現在、実測したγ相とγ'相の格子定数・弾性定数をもとに、有限要素法等を用いたシミュレーションを始めています。
 設計解析チームにおける耐熱材料のマクロな特性の測定、物理的特性値の実測、ミクロ組織変化の観察、計算機シミュレーションを有機的に組み合わせた研究体制は、効率的な研究推進、耐熱材料に対する多面的な理解を可能としており、効率的な新材料開発に貢献しています。

図 第3世代Ni基単結晶超合金TMS-75の<100>方向のヤング率の温度依存性




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