新世紀耐熱材料プロジェクト
プロジェクトの新しい展開に向けて

新世紀耐熱材料プロジェクト
ディレクター
原田 広史



1.はじめに
 CO2排出削減への貢献等を目的とした新世紀耐熱材料プロジェクト(第I期:1999~2003年度)は、4年目を迎え、開発目標の達成に向けて順調に研究が進捗しています。本特集では最近の研究成果やプロジェクトの新しい展開について紹介します。

2.CO2削減への期待
 国内のCO2総排出量の約33%は発電に関連して排出されており、そのほとんど全てが火力発電によるものです。このため、現行約40%の火力発電の熱効率を大幅に向上させて燃料消費量を低減し、CO2排出量を削減することが強く望まれています。
 独立行政法人化先導プログラムの一環としてスタートした本プロジェクトでは、明確な目標設定、柔軟なプロジェクト運営等の趣旨のもと、3~5年後の実用化が期待される耐用温度1100℃のNi基超合金、将来、より大きな効果が期待される1500℃のセラミックス、1800℃の高融点超合金といった3種の耐熱材料を開発しています。これらによって熱効率65%の超高効率コンバインドサイクル発電による発電関連の排出CO2の30%削減(国内排出CO2の10%に相当)をはじめ、高効率コジェネレーション、次世代ジェットエンジンなどの実現を可能にし、地球温暖化防止やエネルギー資源の有効利用に貢献することを目的としています(図1)。

3.最近の成果概要
 Ni基超合金開発については、格子定数ミスフィットによる転位組織の制御などにより、耐用温度1080℃の第4世代単結晶超合金を開発しました。また、第2世代および第3世代合金についてガスタービンによる実質50日間の起動停止実証発電試験を無事終了しました。さらに開発合金による全長30cmの大型単結晶模擬タービン翼への鋳造を行い、コンバインドサイクル発電ガスタービン動翼製造の可能性を示しました。耐用温度1100℃の達成に向けて研究が進められています(図2)。
 1500℃を目指すセラミックスでは、窒化ケイ素系材料へのLu(ルテニウム)添加と結晶粒界構造制御により、また、1800℃を目指す高融点超合金については、Ir(イリジウム)をベースにした新合金のミクロ構造制御と固溶強化などの材料設計を行うことにより、それぞれ目標耐用温度に近づきつつあります。
 さらには、材料設計、組織特性解析の結果を基に、Ni基超合金の組成と使用条件(温度、応力)を入力するとクリープ破断寿命が計算される予測式を作成し、仮想タービンに組み込みました。これによって、任意の組成のNi基単結晶超合金について、ガスタービン動翼の使用環境を想定したクリープ寿命予測や、ガス温度を上昇させた場合の熱効率推定が可能になりました。これらの研究は国内、海外の多くの企業、研究機関と協力して行われています。以上の成果の詳細については、本特集の次ページ以降に紹介します。

4.プロジェクトの新しい展開
 プロジェクト(第I期)の後半の2年においては、各チームの研究成果を総合し最終目標の達成を目指します。また、新たに東京大学工学部にコーティングチームを置き、開発材料のより高温かつ長時間の使用を可能にする新コーティング技術開発にあたることとします。基礎研究面では材料設計チームと組織解析チームを設計解析チームとして再編し、材料開発指針の確立を目指した研究を行います。成果の移転に関しても、国内および世界各国のガスタービン、ジェットエンジンメーカーとの協力をさらに発展させ、開発材料の本格的な実用化を目指します。詳しくは、プロジェクトホームページ(http://sakimori.nims.go.jp/)をご覧下さい。

図1 超高性能ガスタービン翼の開発とその波及効果



図2 Ni基単結晶超合金開発の達成度



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