“社会・都市新基盤実現を目指す超鉄鋼プロジェクト”
高効率発電用フェライト系耐熱綱の長寿命化を目指して

超鉄鋼研究センター
耐熱グループ
阿部 冨士雄



 本研究では、CO2削減効果が大きい650℃の超々臨界圧火力発電プラントのボイラ系大径厚肉鋼管(厚肉パイプ)に長時間使用されるフェライト系耐熱鋼を開発する目的で、高温で重要なクリープ強度の向上を中心に、耐酸化性、溶接継手強度、疲労強度などを検討してきました。クリープとは、高温では応力が低くても材料が長時間かけてゆっくり変形することを言います。石炭を燃料とする火力発電の蒸気温度は現在600℃以下ですが、650℃に上昇させると発電効率向上やCO2削減など、地球環境保全へ大きく貢献できます。このため、650℃級フェライト系耐熱鋼の開発は欧米でもしのぎを削っています。
 クリープ強度向上に関しては、粒界近傍ではクリープ変形中に強化組織が崩れて弱くなり易いことがわかり、粒界近傍の強化組織を長時間まで維持する材料設計の指針を提案してきました。このうち、ボロンを添加した9Cr鋼では、650℃の長時間側のクリープ破断寿命が従来鋼の10倍以上という驚異的な結果が得られています(図参照)。
 高温水蒸気中の耐酸化性向上に関しては、9%程度の比較的低いクロム濃度でも、クロムの薄い酸化皮膜が表面に生成し材料を保護するため、耐酸化性が飛躍的に向上することを見出しました。従来は、厚い鉄酸化皮膜の成長を如何に抑えるかに主眼がおかれてきましたが、クロムの薄い酸化皮膜の生成を狙う本研究は新たな領域を切り開きました。
 溶接継手強度に関しては、脆性的な破壊(タイプ4破壊と呼ばれています)によるクリープ強度低下は溶接金属と母材の間に生じる溶接熱影響部の特に結晶粒の細かい領域で起こることを明らかにしました(表紙写真下参照)。結晶粒の細かい領域には粒界が多く含まれるので、母材以上に粒界近傍組織の長時間強化に着目した材料設計が必要になります。
 今後は、パイプの製造性や溶接構造物の高温特性など工業化に向けた検討と平行して、より高温化のための新たなシーズも探索していきます。

図 650℃における従来鋼(9Cr鋼)と開発鋼の応力とクリープ破断寿命の関係




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