“社会・都市新基盤実現を目指す超鉄鋼プロジェクト”
超鉄鋼第1期の成果と第2期計画の概要

材料研究所
信頼性評価グループ
萩原 行人



 超鉄鋼プロジェクトの目標は、資源・環境問題の解決に貢献するような「強度2倍、寿命2倍」の鉄鋼材料を開発することです。希少な合金をなるべく使わない、リサイクルしやすい鉄鋼材料で、しかも「強度2倍、寿命2倍」の特性を持つものにしようというものです。構造物を軽くし、トータルコストを低くできるという、21世紀の新しい構造材料を目指したものです。
 超鉄鋼研究は1997年に開始され、第1期5年の研究を終え、第2期5年を迎えようとしています。大学・企業からの研究者も当機構で研究するという新しい産学官の連携をはかりました。
 強度2倍鋼の研究では、(1)合金元素を使わないリサイクル性に優れ、しかも溶接がしやすい構造用の微細粒800MPa鋼(800MPa以上の引っ張り強度をもつ鋼)の開発、(2)鋼構造物の溶接継手に変わる新しい継手方法として注目されているボルト継手の実現、あるいは自動車部品などの軽量化の実現を目指す1500MPa超級鋼の開発、寿命2倍鋼の研究では、(1)海浜・海洋環境でも腐食しない、高窒素省ニッケル(Ni)高耐食性ステンレス鋼、Niレス海浜耐候性鋼の開発、(2)石炭火力発電のエネルギー効率の5%向上を可能にする650℃×350気圧用高強度フェライト系耐熱鋼の開発という4つの課題を掲げました。
 この第1期5年の研究で、図1に示すような「超鉄鋼の顔」をもつ鉄鋼材料を実験室レベルでつくることができました。また、その材料の機能を生かす溶接技術の基盤も確立し、さらに遅れ破壊やクリープ特性で新しい評価法も提案してきました。
 これらの成果を受け、第2期の研究においては、実験室レベルから工業化を視野に入れた基礎研究に展開するステージに入ります。21世紀の前半には、1950年代からの高度成長期に整備してきた高層ビルや交通流通システムなどの社会インフラのリプレース時期を迎えます。そのため、都市の新基盤となるインフラをリサイクル性に優れた「強度2倍、寿命2倍」の超鉄鋼でつくることを目指します。
 図2は、第1期の研究で得られた超鉄鋼を橋梁に適用した場合のイメージ図です。橋桁には、微細粒高強度鋼とNiレス海浜耐候性鋼を組み合わせたもの、桁の現場施工は遅れ破壊に強い超高強度のボルト接合、また、海水につかる橋脚には耐海水高窒素ステンレス鋼を使うことをイメージしています。さらに、疲労強度を倍増する溶接材料を使い、高強度でかつ長寿命化をはかることで、軽量化とともにトータルコストを下げることを考えています。
 また、650℃×350気圧用高強度フェライト系耐熱鋼の研究については、鋼管の製造性、高温強度特性以外の溶接部の強度、靭性特性なども明らかにし、石炭火力発電プラントへの適用を考えていきます。
 超鉄鋼材料によってつくる構造物を「都市新基盤構造物」と「高効率火力発電プラント」に設定し、そのため強度も寿命も同時に2倍にする「ファクター4」の高強度耐食鋼と耐熱鋼を創製すること、及び材料の優れた機能を生かす新構造の模擬体製作からその特性評価を行っていきます。また、超鉄鋼材料の科学的な解明や標準化などの基盤的な研究にも取り組んでいきます。

図1 超鉄鋼(上段は従来鋼)の顔:
(a) 従来鋼の結晶粒径を1桁小さくした超微細粒800MPa鋼(SEM像)
(b) 遅れ破壊と疲労に強い組織・炭化物の微細な1600MPa鋼(AFM像)
(c) 微細組織で高温長時間にも安定な耐熱鋼(TEM像)
(d) 海水暴露試験でも表面がさびない高窒素ステンレス鋼(暴露サンプルの外観写真、サイズは50mm角)


図2 超鉄鋼第1期の成果を活用して高強度で高寿命の構造物をつくる



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