技術展開室(TEO:Technology Evolving Office)の誕生
技術移転・技術展開のOne Stop Window を目指して

 



1. 技術展開室・金曜日・朝
 金曜日の朝、スタッフミーティングの時間です。リエゾンスタッフがマグカップを片手に会議机の勝手な場所に着席。総勢7名。
 『これはどうなった?』『妥協ラインが低すぎる。』『駄目だ、駄目だ。』と、室長の我儘な罵声が飛び交う中、チーフリエゾンスタッフがてきぱきと進捗状況を整理し、今後の方針を確認していきます。さあ、ランチブレーク。

2. 何故、技術展開が必要?
 我々独立行政法人は、いわゆる公的研究機関の一つとして、研究活動に関する社会への説明責任を負っています。何のための研究を行い、その成果がどんな形で社会に役立っているのか、国民各層にわかりやすく語りかける努力を常に行う必要があります。
 研究所で行われている研究には、実利用として結実するのが遠い先の研究や、比較的間近に生活に潤いを与えられる研究があります。どちらの研究も機構の使命を果たすべき重要な研究ですが、実利用に近い分野の研究では、少しでも早い成果の利用に努めることが我々の責務であり、その実績を明らかにしていくことが社会への説明責任の観点からも重要かつ説得力のある手段でしょう。
 旧国研時代にあっても、そのようなマインドがなかった訳ではありません。実利用を強く意識した超鉄鋼等のプロジェクトが企業との連携の下に推進され、また自らが産み出した単結晶素材が少しでも早く社会で利用されるためにベンチャー企業を創業して研究休職の身分で汗をかいている研究者もいます。しかし、組織としてそのような努力を十分に支援し得る体制とはとても言えませんでした。
 2001年10月15日、理事長のイニシアティブで技術展開室が創設されました。技術移転・技術展開に関わる業務を一元的に行う組織が新たに生まれたのです。

3. 知的財産権の確保は必要?
 それでは、我々の研究成果が速やかに社会で使われるようになるには、何をすれば良いのでしょう。
 時に、我々公的研究機関に対して、その研究成果に係る知的財産を特定の企業だけの実施に委ねるのは間違いであり、知的財産権を取ることなく、誰もが使えるように即時オープンにすることこそ、公的機関が成果の社会還元を進める上で取るべき道である、との論理を展開する向きがあります。
この考えは正しいのでしょうか?
 企業が新しい技術の実用化に取り組むのは、それが成功した場合の見返りが十分に期待されるからこそ、リスクをかけて挑むのではないでしょうか。特許権など何もない無法地帯の状況では、誰も率先して新しい材料の実用化に取り組むわけがありません。
 よって、我々としては、産み出した研究成果に係る知的財産を速やかに権利化することが絶対に必要となります。出来るだけ強い形で特許権を確保し、熱意をもつ企業に実施許諾をしてその実用化開発に集中して取り組んで頂く、それが成果の移転を速やかに行う最上の策なのです。

4. 技術展開室・金曜日・午後
 お解り頂けたかと思いますが、強い特許権を確保すること、それに基づき効果的・効率的に技術移転・技術展開を図ること、この2点が技術展開室の主要な使命と言えます。
 それでは、技術展開室の具体的な仕事の一端をご紹介しましょう。
 同じく金曜日の午後、ナビゲーションと呼んでいるミーティングの開始です。下図の左端部分に該当しますが、一連の業務の出発点にあたる重要なイベントです。
 『これは物質で取れないかなあ。』『無理だよ。それより、組成をどう取るかだ。』『A社とB社はどっちが関心が高い?』といった熱い議論が、特許としての権利化を考えている案件毎に展開されます。メン
バーは、案件に関わる研究者、非常勤の弁理士、目利き人材として登用した民間出身のチーフリエゾンスタッフ及び他のリエゾンスタッフです。ここでその後の展開の基本方針を方向付け、以後のライセンシング、マーケティング、インキュベーションに繋げていくわけです。もちろん、既に特許申請済みの案件についても、ライセンシング等の相談を個別に行っています。
 最近では、ライセンシングを希望する企業からの引き合いがどんどん増えております。その交渉のため、リエゾンスタッフは他の曜日を利用して走り回っているのです。
 3件のナビゲーションを終えたら、外はもう闇。心地よい疲労感の中、刺激に満ちた一週間が終わろうとしています。


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