自己組織化する骨類似材料の開発

生体に吸収にされ本当の骨に変わる再生機序を解明

東京医科歯科大学
大学院医歯学総合研究科 教授
四宮 謙一

 

生体材料研究センター
センター長
田中 順三



 病気やケガで骨が損なわれた場合、その欠損の幅が5mm以下であれば骨は自然に治癒します。しかし、骨欠損がそれより大きい場合には、患者本人の腰や脚の骨の一部を採って移植する「自家骨移植」が行われています。自家骨移植を行うとそれまで歩けなかった人が歩けるようになり非常に大きいメリットがあるのですが、反面、いくつかの問題も残されています。例えば、採取できる骨の大きさに限りがあること、また健康な部分にメスを入れるため患者の肉体的な負担が大きいこと、さらに手術後に採取した部分が痛みを感ずるなどの問題が知られています。そのため、自家骨の代わりになる骨充填材料の開発が強く望まれています。
 今回、当機構と東京医科歯科大学は協力して、生体内に移植すると本当の骨に変わる新しい人工骨を開発しました。この人工骨は、骨とほとんど同じ成分、つまり無機物のハイドロキシアパタイトと有機物のコラーゲンからできています。当機構では、生体内で骨が形成されるときの反応を試験管の中で実現する方法を長年検討してきており、最近それをうまく模倣したバイオミメティック合成法を開発して、骨と同じようにアパタイトとコラーゲンが規則正しく並んだ構造を実現することに成功しました。合成した新しい人工骨を用いて、東京医科歯科大学で動物実験を行ったところ、骨欠損に移植した材料は周囲に骨をつくる細胞群を誘導し、12週後には新しい骨に生まれ変わることを実証できました(写真1及び写真2)。この骨再生の様式は、自家骨を移植したときに見られる骨再生にきわめて良く似ていますが、人工物が生体の骨代謝系にうまく取り込まれた理由は、材料の組成・構造が骨と同じであるためと考えられます。
 現在、開発した新しい人工骨の実用化について医療企業と検討が進んでおり、数年後には骨の再生医療の新しい道が拓けると期待されています。本材料は、整形外科・脳外科・胸部外科・口腔外科・耳鼻咽喉科・形成外科・獣医外科への応用が考えられています。
(本研究成果は、昨年10月3日付けの毎日、日本経済、日刊工業、日本工業、日経産業、化学工業日報の各紙に掲載されました。)

写真1(左)イヌ脛骨(20mm長の骨欠損)に粒子状の骨類似複合体を移植します
   (右)12週後に、骨がほぼ完全に再生され、イヌは自由に活動できるようになります




写真2 ビーグル犬の脛骨に移植した術後12週間後の結果(HE染色)
人工骨の周囲に破骨細胞が現れ材料を吸収します.
その跡に骨芽細胞が誘導されて新生骨を再生します.
このことから、人工骨が生体内の骨代謝系に取り込まれ、
本当の骨に変わることがわかります




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