新年を迎えて

理事長
岸 輝雄



 新年おめでとうございます。独立行政法人としての機構の出発から9ヶ月が経ち、新しい体制での研究も軌道にのり、新年を迎えることは喜ばしい限りです。開かれた機構として物質・材料分野における世界のCOEの一つにならんと努力している今日この頃と言えましょう。
 昨年10月15日をもって運営・経営のためのフロント組織、研究を推進する3センターと1ステーション、そして技術展開室を設置し、ようやく独立行政法人の独立、法人のための組織作りの大きな骨格を作り上げることができました。まず、フロント組織について言えば、研究所で最も重要な将来の新分野設立、研究戦略、資金配分、研究者の処遇、スペース配分等を強力に押し進めるべく総合戦略室を設けました。また、同時に全研究費の20〜30%を目標に競争的資金を確保し、特に民間資金の導入をも視野に入れた研究資源室、社会的要請を速やかに感知し、共同研究を行い、そして技術移転等につなげるべく産学独連携室、一方中期計画における評価を含め、個人評価、グループ評価、ユニット(研究所、センター、ステーションを含む)の評価を推進し、そして国際的にも開かれた研究機構作りのための評価・国際室を設置いたしました。同時に、技術支援を含め、社会へのaccountabilityをも果たすべく広報・支援室を設置しております。

 3研究所に加えて旧2研究所の力を結集すべく、そして集中的に研究を進めるため3センターを設立しました。アドバイザーディレクター制度を設置し、超一流の先生のご指導を仰いでおります。また、データベース等の公設機関の重要な責務を果たすべく、1ステーションを立ち上げました。今年4月を目処に、もう1〜2のセンターおよびステーションを立ち上げ、最初の5カ年における中期計画の組織作りを完了したいと考えています。一方、研究業務部の中に技術展開室を新たに設置し、基礎・基盤を中心に行う本機構内で、その成果を特許等を通して産業実用化に結びつけるのも一つの大きな責務と言えます。新たに企業より目利きの人に入っていただき、積極的に技術展開を図る覚悟です。各研究者個人のデータベースを作製し、それを基に技術移転の可能なものを研究者と相談しつつ、取り上げていくことが必要と考えられます。

 これらの施策が研究成果と結びつかないことには、単なる組織いじりで終わってしまいます。この際重要なのは研究成果の定義です。いわゆる評価の対象が重要と言えます。評価の対象としては科学と技術をめざす以上論文・特許・作品(ソフトを含んでの新しい物造り)の3項目、そしてデータベース、標準化等の基盤技術に分けることができます。全てにバランス良く、成果を求めるというよりは、何か一点で傑出した成果が求められるのは言うまでもありません。最も大事なことは人の手がけない新しい発想で、新しいテーマにチャレンジする気概ということが言えましょう。この際、Idea、Conceptが重要となりましょう。しかしながら、個人的な経験では研究者の評価のベースは論文にあることも否定できません。冒頭に書いたように開かれた、そして国際的に開かれたという意味では国際誌への投稿は重要な評価の中心になるという言い方ができます。多面的に評価を進めねばなりませんが、論文と特許、物造り等は比例関係にあることが多いのも事実です。

 そのためには若手研究者の導入、内部研究者の再教育(refreshing)が欠かせません。独立行政法人になったことにより機構内で新たなポスドク制度を設置しております。また、共同研究を行っている大学院生への補助、および機構研究者の海外留学制度、そしてある種のサバティカル制度を設定しています。今後の研究は、頭脳に投資すべきものであり、研究者の頭脳のrefreshingとその向上が最大の課題といえます。メンタリティの異なる外国人研究者も重要です。現在、チェコ、アメリカ合衆国、オーストラリアの大学との連携が決まっております。また学協会との協力という意味では、日本金属学会の東京事務所を中目黒の材料試験事務所に置き、共同で材料情報の収集をはじめました。日本MRSとの連携も考えております。また、産業技術総合研究所とも昨年5月に行ったワークショップをもとに連携を進める予定です。この点に関しては今後とも努力を積み重ねる覚悟です。

 機構が大きく発展するためには、現状のアクティビティそして現状の優れた領域を持続・発展させると同時に、新たな研究分野の設立と施策の導入が必要となります。それには内外の物質・材料に関するネットワークの構築は重要な課題です。真に有益な情報、そして異なるメンタリティのぶつかり合う中での研究を推進することの重要性が強調されねばなりません。ナノに関してはナノ支援総合センターの設立も視野に入れています。次に新たな物質創成と同時に材料としての有効性の確認が必要です。単なる材料と言うよりは、デバイス、構造体化が機能材料、構造材料の目指す方向であり、その成果の技術展開は今後の機構の大きな課題と言えましょう。また、人の踏み込まない未踏分野への挑戦ということが研究の基本ですが、同時に20世紀の科学技術が残した問題、特に環境問題を解決することを忘れてはなりません。ナノテクノロジーの発展が期待されていますが、ナノテクノロジーでまた環境問題が生ずるようでは元も子もないと言えましょう。それゆえ最先端でありながら、問題解決型の課題、すなわち環境問題等を残さない研究が、今後の研究の基本となるでしょう。

 無機材質研究所と金属材料技術研究所の統合で設立された「物質・材料研究機構」の名の下に高分子をどう入れ込むかも大きな課題です。材料の研究がナノ、すなわち原子・分子のレベルで行われるときに、縦割りの材料の分類は無意味になる可能性もあり、ナノテクノロジーそのものが学問の統合化を目指すものであります。本機構においては金属、セラミックスと併用して用いられたり、または複合化、融合化して用いられる分野から積極的に高分子(ポリマー)に挑戦したいと考えております。生体材料研究センターはその突破口になることが期待されます。

 いずれにせよ、研究所は花の咲いている部分、耕している部分、新たなチャレンジを開始している部分が必要です。この3番目の新分野の中に高分子などが含まれ、取り扱いとしてのナノが大きな役割を期待されます。安全、環境、エネルギーに加えてこれからの目指す方向は電子、光材料に関係するナノ、そしてスマート(多機能)、材料としてはポリマーが機構の新しい分野としてのキーワードとなります。
 
 また同時に文部省と科学技術庁が統合したことも忘れてはなりません。文部科学省の中では大学に近づいたと言うことで積極的な大学連携を模索する必要があり、現実に大学との人事交流も進めようと計画しております。一方で教育の義務のない我々は大学とのある種の研究の差別化も忘れてはなりません。そういう意味で大学より大きなグループ研究および大型装置に依存する研究も重要な役割を持つことになります。ただし、科学技術の分野ではグループ研究といえども個人の新しい発想によるところが非常に高いことは否定しがたい事実です。個人の能力を最大に生かすべく研究体制を組むことが必要と言えましょう。また、個人の研究能力が高いことを高く評価するシステムが重要です。管理はフロント組織に任せてもらい、所長といえども、自ら決して研究と離れることなく、研究を中心とした管理、運営ということに置き換えて進む体制を作りたいと希望しています。研究者は雑用からの解放が重要です。事務部門の多大なる協力の下にシンプルな運営が大いに期待されます。学協会活動といえども委員会等による活動で大事な時間を損なう、いわゆる時間の劣化が生じないように注意したいと思います。本務の研究を楽しむ研究所にしたいものです。研究者が“好きで選んだ研究の道”を遂行するには“Enjoy キャンパス”が何にも増して重要です。
 独立行政法人は旧国立研究所とは根本的に異なるものだということを認識して中期計画とその評価をよく理解し、5年単位でじっくり取り組むことにより、個人も大きな成果を挙げ、それにより機構としてのアクティビティが向上することを切望し、皆様の御協力を願い新年の挨拶にかえたいと思います。


トップページへ