超微細結晶粒からなる高強度鋼板の試作に成功
"強度2倍"の鉄鋼材料実用化へ前進

材料研究所
材料創製研究グループ
大森 章夫

材料研究所
材料創製研究グループ
鳥塚 史郎



 当研究グループでは、超鉄鋼プロジェクト(STX-21)のテーマの一つとして、結晶粒径を従来鋼の約10μm(1μm=0.001mm)から
1μm以下にまで超微細化した鉄鋼材料の開発にとり組んでいます。このテーマは、特別な合金元素を使わずに2倍の強度と優れた低温靭性を兼ね備えた省資源かつリサイクル性に優れた鉄鋼材料の実現を目指したものです。
 これまでに、小型試験片を用いた基礎実験により結晶粒微細化の基本原理を解明するとともに、多方向から加工して材料中に大きな歪を導入することにより結晶粒超微細化が可能であることを明らかにしてきました。その知見をもとに、昨年には民間の実生産設備を用いて18mm角の棒材の製造に成功しています。
 当研究グループでは、更に広い用途・分野への応用を視野に入れ、これまで難しいとされてきた板厚10mm以上の鋼板で結晶粒超微細化を実現することを次の目標としてきました。そして今回、既存の圧延機を用いて2方向から温間多パス圧延*1することによって、ほぼ均一の超微細結晶粒組織からなる板厚18mmの鋼板を試作することに成功しました。図1は試作した鋼板の外観です。電子顕微鏡を用いてこの鋼板の内部組織を観察すると、図2に示すように直径約0.6μmの超微細結晶粒からなることがわかります。結晶粒微細化により、降伏強さ*2は従来鋼の2倍以上の780MPa、引張強さ*3は790MPaを達成しました。
 この結果は、超微細結晶粒からなる鉄鋼材料を工業的に実現するための大きな一歩となる成果ですが、機械的特性や製造方法に関して解決すべき次の課題もあらためて明らかになってきました。そのために、新しい加工プロセスの開発も含めた取り組みを継続し、実用化につながる技術の提案を目指します。
*1「温間多パス圧延」
 およそ800℃以上で行う従来の熱間圧延に対し、およそ500〜700℃の温度域で行う圧延を温間圧延という。また、多パス圧延とは目的の板厚まで数回に分けて徐々に減厚する圧延のこと。
*2「降伏強さ」材料が永久変形し始める強度。
*3「引張強さ」引張試験時に材料が示す最大強度。

(本研究成果は、読売、日刊工業、日本工業、日本経済、日経産業などの各紙に紹介されました。)


図1 試作鋼板の外観写真

(a) 従来鋼


(b) 超微細粒鋼

 

図2 従来鋼と試作鋼板の組織比較




トップページへ