特集“ナノ物質・材料”その2

微量成分による
高次構造制御技術の開発

物質研究所
焼結体グループ
池上 隆康



 セラミックス固有の性質を解明するために高純度物質の創製研究が続けられてきました。それらの研究で材料を高純度化すると高機能性材料が開発できることが分かりました。それと同時に、適切な微量成分を添加すると機能がさらに改善できることや、新機能が発現できることも分かりました。例えば、アルミナに微量のマグネシアを添加して焼結すると、セラミックスは不透明であるという常識を覆す透光性のアルミナセラミックスを製造できます。また、酸化亜鉛に酸化ビスマス等を加えると、ある電圧以上になるとオームの法則から外れて電気伝導度が急激に大きくなるバリスター特性が発現します。このため、微量成分と機能に関する研究が重要視されました。
 しかしながら、それらの多くは単一の添加作用を利用した材料開発に止まっていました。当機構では、複数の微量成分を適切に組み合わせて特異な原子配列(一種の高次構造)を出現させると、従来の単純な熱力学では予想できないような現象が起こると考えています。本研究は、そのような現象を利用して革新的な材料の開発を目指したものです。具体的には、図1に示すように大きいイオン(Eu3+:発光)と小さいイオン(Lu3+)を組み合わせて特異な高次構造で格子の歪みを小さくし、それぞれの固溶限を広くすることで、相図で示される以上の発光元素を固溶させてレーザーや光センサー等の発光強度を高めます。また、固体中に複数の微量成分を添加して液体状態に近い構造を作り出すことで、液体に近い電気伝導度を有する高性能固体電解質等の研究開発を行います。レーザーや光センサーは産業ばかりでなく医療の分野でも開発が要望されています。また、電気伝導度の良い固体電解質を備えた高性能の燃料電池や空気浄化装置は、地球環境保全など環境問題の解決に寄与することができます。
 本研究の成果の一部を図2に示します。図2aは当機構で開発した製造法で、調製した粉末を常圧焼結して得たY2O3透明焼結体です。従来法で製造すると焼結体は半透明あるいは不透明(図2b〜e)です。今後は図2aの透明体に複数の微量成分を添加することで、高輝度レーザーや高感度光センサーなどの応用開発を進めます。

図1 Eu3+とLu3+を共存させて構築した特異な高次構造

図2 当機構で開発したY2O3透明焼結体の写真




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