特集“ナノ物質・材料”その2

新ナノスケール物質の探索
窒化ホウ素のナノチューブ、ナノコーン、フラーレン

物質研究所
超微細構造解析ステーション
板東 義雄



 ナノテクノロジーは「原子や分子に着目して、ナノスケールレベルで構造や組織を制御し、新しい機能を持った新材料や新デバイ
スを創製する技術」で、今世紀の産業革命をリードする革新的キーテクノロジーとして、国内外で注目されています。我々のグループでは、これまでに知られていない新規なナノスケール物質を探索し、その創製方法や構造を明らかにしています。これまでに、窒化ホウ素(BN)のナノコーンやフラーレンを世界に先駆けて発見し、その構造を解明することに成功しました。

 物質が微細化し、ナノスケールレベルになると、バルクにはない全く新しい機能が発現したり、あるいは特性の大幅な向上が見られるなど、様々な優れた特徴が現れます。このため、新規なナノスケール物質の探索研究に大きな関心が寄せられています。その代表例がカーボンナノチューブです。バルクなカーボンは本来半金属で導電体ですが、ナノチューブ状になると、半導体や金属の性質が現れます。さらに、電子を放出します。このような新特性の発現から、カーボンナノチューブは電子源としての薄型ディスプレイや水素を吸蔵する水素貯蔵素子などへの応用が現在急展開で進められています。
 一方、窒化ホウ素(BN)はカーボンとよく似たグラファイト構造を持ちます。BNは本来絶縁体で、カーボンに比べて熱に強い、化学的に安定であるなど、耐熱性や耐酸化性において優れた性質を持っています。我々はこのような優れた特性を有するBNに着目し、ナノチューブ、ナノコーン、フラーレン、ナノケーブルといった新規なナノスケール構造物質の探索研究を行っています。
 最近、BNナノチューブを収率良く創製する新しい合成方法を開発することに成功しました。我々は、この方法を置換反応法と命名しました(図1)。カーボンナノチューブを原料とし、窒素雰囲気下で酸化ホウ素と高温で反応させて、BNナノチューブを合成するものです。酸化モリブデンなどの触媒を用いると、BNナノチューブの収量が大幅に向上することも明らかになりました。
 一方、 BNは濡れ性が悪く、これまでチューブの中に金属を注入することが困難とされてきました。我々は、出発原料のカーボンナノチューブに金属を注入した後で置換反応を行う新しい合成法で、金属を注入したBNナノチューブ(これをBNナノケーブルと呼びます)を合成することに成功しました。
図2はBNのナノケーブルで、単結晶のFe-Ni合金のナノワイヤー(ナノサイズの針状結晶)がチューブ内に見事に注入されています。BNのナノケーブルは、BNが絶縁体であることから、絶縁体膜で被覆したナノサイズの超微細金属線として、ナノ電子回路への応用が期待されます。
 カーボンではナノチューブの他にナノコーンやフラーレンの異なる形態を持つ構造が知られています。我々は、BNにおいてもナノコーンやフラーレンが存在することを見出しました。図3はBNのナノコーンです。グラファイト状の6員環に回位(disclination)と呼ばれる欠陥が発生すると、コーン状の尖った構造が形成されます。カーボンのナノコーンが約60度の先端角度を持つのに対して、BNナノコーンは約39度とより先端が尖っています。先端が尖ったBNナノコーンは高分解能の原子間力顕微鏡(AFM)の探針としての応用が期待できます。
 図4はBNのフラーレンです。BNフラーレンはグラファイト構造を持つBN薄膜に高速の高密度電子線(300kVの加速電圧を持つ電界放射型電子顕微鏡)を照射することにより合成できます。四角いサイコロ状の微粒子は
バッキーオニオンと呼ばれるBNフラーレンです。カーボンのフラーレン(C60)がサッカーボールの球状をしているのに対して、BNフラーレンは8面体の籠構造を取り、その外形は正方形で両者の形態は大きく異なります。これは、C60が5員環欠陥、BNフラーレンが
4員環欠陥と欠陥の種類が異なることが原因であることを明らかにしました。
 今後はBNナノチューブの特性を解明するとともに、その応用の展開を図ります。また、窒化物、炭化物、酸化物のセラミックスにおいて、ナノチューブやナノワイヤー等の新ナノスケール物質を探索していきます。

図1 置換反応法によるBNのナノチューブの合成法

図2 Fe-Ni のナノワイヤーを注入したBNのナノケーブル




図3 BNのナノコーンとその構造

図4 BNのフラーレンとそのB12N12の構造






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