セラミックスで金属並の高速超塑性を実現

材料研究所
力学特性研究グループ
金 炳男



 高速超塑性とは、10-2ないし10-1/s以上のひずみ速度で約200%以上の引張伸びを示すことです。高速超塑性は従来アルミニウム合金など金属材料でのみ実現されており、金属材料の精密塑性加工の進歩に大きな役割を果たしています。しかし、セラミックスの場合は、超塑性が現れるひずみ速度が10-5〜10-3/sに留まっており、このことが超塑性セラミックスの実用化を阻む大きな原因の一つとなっています。
 我々のグループでは、高加工性セラミックスの創製に関する研究を進めてきましたが、この度、ジルコニア、アルミナ、スピネルで構成される複合セラミックが(図1)、1/sの高いひずみ速度で引張伸び390%まで変形できることを発見し、9月20日付けの「ネイチャー」誌に発表しました。1/sというひずみ速度は1秒に2倍伸びる速度で、従来の超塑性セラミックスにおける最高ひずみ速度の約100倍です。
 さらに、ひずみ速度0.4/sでは引張伸びが1050%以上に増大します(図2)。今まで報告されたセラミックスにおける最高伸びはシリカ添加ジルコニアの1040%で、本材料は伸びにおいても従来の最高値を若干更新しました。しかし、何よりの成果はひずみ速度における向上です。従来の最高伸びを得る際のひずみ速度に比べて約3000倍も速くなったのです。変形時間に換算すると、20時間が25秒に縮まりました。また、変形後のキャビティ生成も超塑性金属並に抑えられ、変形による強度低下はあまりないと考えられます。
 このように、本高速超塑性セラミックの開発により、既存の超塑性セラミックスで重大な短所とされてきました、低い変形速度と大きなキャビティ発生量が克服されました。高速で巨大変形してもキャビティ損傷が超塑性金属並に抑えられたことは、超塑性セラミックスの実用化に大きく貢献すると期待されます。
(本研究成果は、朝日、読売、毎日新聞、BBC、Science Newsなどに紹介されました。)

図1  微視組織;Z,A,Sは各々ジルコニア、
アルミナ、スピネルを表す.

図2 超塑性変形前後の試験片




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