特集“ナノ物質・材料”その1

光機能粒子性結晶の創製に関する研究

物質研究所
機能化領域
澤田 勉



 サイズと形の揃った大量の微粒子が、空間的に整然と周期配列した構造体を、我々は「粒子性結晶」と名付けました。通常の結晶はオングストローム(1ナノメーターの十分の一)サイズの原子や分子が周期配列したものですが、粒子性結晶は、原子や分子が集まって二次的につくる微粒子を構成単位とした結晶です。その微粒子のサイズはナノメーター領域にあります。通常の結晶では、構成単位である原子や分子のサイズは天与のものですが、粒子性結晶では、粒子サイズは人間が都合に応じて決めます。つまり、粒子サイズを適切に選択することで、粒子性結晶の特性を意図的に設計することができる余地が存在するわけです。その意味で、粒子性結晶は、通常の結晶とは概念の大きく異なった材料といえます。
 本研究プロジェクトでは、特に、粒子サイズが光の波長と同程度か少し小さいくらい、つまり、数百ナノメーターの場合をターゲットにしています。このようなサイズの粒子がつくる結晶は、光と強く相互作用し、驚くような異常な現象を起こします。例えば、特定の振動数の光のみをほとんど百パーセント遮断したり、結晶内部に閉じ込めたり、あるいは、鋭く屈折させたりします。このような性質は、全く新しい光機能をもつ素子の実現や、光素子の超小型化に利用できる可能性があります。
 これまでに材料科学の分野では、半導体や酸化物の様々な結晶材料が実用化されてきました。その基礎物性の解明やデバイスへの応用の多くの局面において、単結晶の存在が決定的な貢献をした例は枚挙にいとまがありません。粒子性結晶の実用化においても同様に、単結晶作製技術の確立が極めて重要であることは間違いありません。このような着眼点に立ち、本研究では、粒子性結晶の大型の単結晶を作製する技術を確立することを、その主たる目的としています。
 それでは、如何にして粒子性結晶をつくれば良いでしょうか。我々のアプローチは、粒子を液体に分散したコロイド溶液から出発することです。コロイド溶液においては、条件を整えてやることで、微粒子が自発的に規則配列する現象が起こります。これは通常の結晶の成長現象と共通する点が多く、これまで蓄積された結晶成長技術の知識と経験が、粒子性結晶の単結晶作製にも大いに役に立つものと期待しています。

図 粒子性結(微粒子を構成単位とした結晶)の概念図.





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