特集“ナノ物質・材料”その1

光スイッチング材料
イオンビームを用いたナノ粒子制御

ナノマテリアル研究所
ナノファブリケーション研究グループ
岸本 直樹



 光スイッチング材料の研究開発については、現在の光スイッチング素子の情報処理速度は10ギガヘルツ級ですが、これを全光化し、大容量高速伝送化に対応した1 テラヘルツ級へ展開するために必要な材料技術の研究開発を行います。これに向け我々は金属ナノ粒子系に着目し、10ナノメートル径程度の金属ナノ粒子を誘電媒質中に分散させたナノ構造を作製し、そのデバイス化を見据えた研究開発を行います。
 近年、金属ナノ粒子が大きな非線形性を有することが見出され、さらに高速応答性が発見されるに至って、有望な光学機能材料として注目されるようになりました。金属電子をナノメーターサイズの空間に閉じ込めると、表面プラズモン共鳴が発生し、それが光電場と強い相互作用を持ち、可視光領域で大きな非線形光学特性(電気素子に例えれば、ダイオードやトランジスターのような機能)を示します。この際、金属の電子はエネルギー緩和時間が極端に短いことから、半導体素子を凌駕する超高速応答性を発揮し、光スイッチング機能等の源となります。
 ナノ粒子系の光デバイス化に向けて重要なことは、粒子形態の調製は勿論ですが、図1に示すように、我々は、ナノコンポジットとしての光学的設計(誘電的解析)、粒子内の欠陥制御、あるいは集積化に適した空間構造制御等が重要だと考えています。このナノ粒子コンポジットは、金属と誘電体の高濃度・非固溶系であり、その作製に当たってはイオン注入技術の特色、すなわち非平衡性及び空間制御性等が大いに生かされます。我々は特に、当研究所独自のイオンビーム技術、すなわち、無帯電の負イオン注入、速度過程利用の高粒子束注入、高粒子束ダイナミックミキシング法、レーザー同時照射・析出制御法等を活用し、さらに他のナノ加工技術と組み合わせて研究開発を進めます。既に我々は、図2に示すようなデバイス化に適した2次元的空間構造や、超高速光学特性を得ており、それらの技術を礎にして、ナノ構造制御による動作波長調整、低損失化、ナノ粒子相安定性等、デバイス化への課題を克服し、その実証までを行うこととしています。



図1 ナノコンポジットの光学的設計と
イオンビーム技術によるナノ粒子構造制御

 

図2 2次元的ナノ粒子構造(上)と表面プラズモン
共鳴による超高連非線形光学応答(下)





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