特集“ナノ物質・材料”その1

論理演算デバイス材料
液滴エピタキシィによるアプローチ

ナノマテリアル研究所
ナノデバイス研究グループ
小口 信行



 半導体集積回路は、21世紀を迎えさらに高集積化が期待されていますが、個々のデバイスの大きさは今やナノメートルの世界にたどり着きつつあります。この潮流は、デバイスサイズ、集積度の経年変化を示すムーアの法則として知られています(図1)。この図からもわかるように、このまま微細化が進めば、10年から15年後にはデバイスサイズが10ナノメートル程度になり、論理演算素子として現在使われている従来のトランジスタの動作原理は破綻すると予想され、質的に新しい技術を確立していくことが望まれています。
 このような状況を打破するひとつの方法としていわゆる単電子トランジスタを利用していこうという研究の流れがあります。しかし室温で動作する個々の単電子トランジスタを作りあげたとしても、論理演算を行わせるためにはこれらの素子をナノメートルスケールの多くの電気的な配線でつなぐ必要があり、この配線をいかに制御性よく高いスループットで作っていくべきかという非常に難しい問題が残ります。
 単電子効果を利用し配線の問題も解決できそうな方法として、量子ドット等のナノ
メートルスケールの極微構造を構成要素とするいわゆるセルオートマトンが提案されています。図2に量子ドットにより構成されるセルオートマトンの例を示します。このセルオートマトンは、現在まだ概念だけが提案されて原理的な実験が行われているにすぎません。今後、実用的な温度で動作するセルオートマトンのための微細な量子ドット等の構造を、制御性よく高いスループットで配列させる技術を確立することが必要です。
 本研究では、1990年に量子ドットの自己形成法としては世界に先駆けて我々が提案し現在まで確立してきた量子ドットの独自の創製法である「液滴エピタキシィ法」が、ナノメートルスケールの極微構造を制御性よく高いスループットで配列させる手法として高い可能性を持っていることに着目し、これらの方法を用いて上述の問題を解決するための材料技術を確立することを目的にしています。

図1 ムーアの法則




図2 セルオートマトンの例.図で円は量子ドットを表す.





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