特集“ナノ物質・材料”その1

電子波デバイス材料
電子ビームによるナノ加工技術の開発

ナノマテリアル研究所
ナノファブリケーション研究グループ
竹口 雅樹



 デバイスの微細構造サイズが数ナノメートルになると、電子の量子化現象を利用した新しい動作原理のトランジスタの実現が可能となってきます。そのようなナノメートルサイズの構造を半導体基板上に形成するために、現在、様々な創製技術の開発研究が進められています。例えば、蒸着などによって表面に自己組織化成長するナノメートルサイズの島状粒子は、サイズの揃った量子ドットの配列となるので、サイズの均一化やその配列パターンの制御に関する研究が精力的に行われていますが、複雑なパターンを作り上げることは原理的には難しく、量子トランジスタへの応用には向いていません。複雑なパターンを設計どおりに創製するためにはリソグラフィー装置が有用ですが、現在最も性能の良い電子線リソグラフィーを用いてもその加工サイズは10nm程度です。
 本サブプロジェクトの目的は、現状の電子線リソグラフィー技術の微細加工能力を遙かに凌ぐ、1ナノメートルレベルのナノ構造を半導体基板上に作製する技術を開発することです。ナノメートルサイズで高強度の電子ビームを形成し、これの照射による様々な表面における反応過程を利用すれば、ナノメートルサイズの構造パターンを設計どおりに描画することができると考えています。
 これまでに我々は、すでに直径2-3nmのSiナノドットの配列パターンの創製技術の開発に成功しており、単電子トランジスタへの応用が期待されています。
 本サブプロジェクトではこの技術をさらに発展させ、電子波干渉トランジスタの実現を目指して1ナノメートルレベルのグレーティングパターンを精度良く創製する技術の開発に取り組みます。電子波干渉トランジスタは、ソースとドレイン電極間のチャネル域にグレーティング構造を持ち、そのグレーティング上にゲート電極が配置されたものです。チャネルを流れる電子の可干渉距離に対してグレーティング周期が短い場合、電子は干渉するので、ゲート電圧の制御によって定在波を形成し、ドレイン電流を振動させることができます。そのようなナノメートルサイズのグレーティング構造を高精度に作成するために、我々はナノメートルサイズの電子ビームと島状ナノアイランドの自己組織化成長などを組み合わせるなど、新しい微細加工技術を開発する研究を行っています。また、形成されたナノ構造やその特性の評価技術を探求したり、ナノ構造の形成機構を知るために創製過程の観察研究も行っています。

図 電子ビームによるナノ加工とナノ評価を示す模式図





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