強磁場で誘起される
新しい超伝導現象の発見


ナノマテリアル研究所
ナノ物性研究グループ
宇治 進也


一般的に電気抵抗がゼロ状態である「超伝導状態」は、磁場をかけることによりエネルギー的に不安定になり、通常の金属状態(電気抵抗が有限な状態)に戻ってしまいます。物質・材料研究機構では、有機物の中で電気を非常に流しやすい一連の伝導体の電子状態を調べてきており、この度、ラムダ型の有機伝導体
λ-(BETS)2FeCl4において、極低温領域で18T以上の強磁場中においてのみ超伝導状態が発現するという、いままでとは全く異なった新しい現象(磁場誘起超伝導現象)を発見しました。
 この物質は、2次元BETS(ビスエチレンジチオテトラセレナフルバレン)有機分子配列とFeCl4分子配列が交互に積み重なった層状構造を持っています(図1)。電荷を運ぶ電子はBETS分子配列面上にあり(結晶のac面)、この面内で電気が流れやすく、この面に垂直な方向では電気は流れにくい構造となっています。この物質は、磁場がないときには低温で絶縁体(電気を全く流さない状態)ですが、10T以上の磁場中では通常の金属状態にもどります(図2)。さらに磁場をBETS分子配列面内にかけると、16T付近から抵抗は急激に減少しはじめ18Tで超伝導状態(ゼロ抵抗状態)へと転移します。温度を上げていくと、この転移は抑制されます。通常の超伝導状態は、磁場中で壊されるのに対して、この物質は、超伝導状態が分子配列面内の磁場中でのみ安定化するという特異な現象を示します。このことは、この超伝導発現のメカニズムが、いままでの知られている超伝導体のメカニズムとは異なる可能性を示唆しています。このメカニズムが解明されると、将来非常に強い磁場中でも超伝導状態が安定に存在するような材料が開発できるかもしれないと考えています。
 この現象は、強磁場、極低温領域という複合極限場での精密測定により初めて明らかとなったものであり、実験は強磁場研究施設で行われたものです。この結果は英国科学誌「Nature」4/19日(Vol.410)号で発表されました。

図1 有機伝導体λ-(BETS)2FeCl4
結晶構造の模式図

図2 磁場がc軸方向の時の電気抵抗の磁場変化。0.04Kデータでは、磁場の増加とともに、絶縁体、金属、超伝導体へと転移していく様子がわかります。



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