介川 裕章

磁性材料センター スピントロニクスグループ
研究員

Email:SUKEGAWA.Hiroaki@nims.go.jp
Phone: 029-860-4642
Fax: 029-859-2701
専門分野
  • 強磁性トンネル接合
  • 磁性薄膜
研究テーマ
「高スピン偏極率を有するCo基ホイスラー合金薄膜の開発」

最近の研究から〜スピネル型トンネルバリアの開発〜

図1のような強磁性体層/絶縁層(バリア)/強磁性体層の3層構造を持つトンネル磁気抵抗素子(TMR素子,図1)は,2つの強磁性層の相対磁化方向によって電気抵抗を変化させることができます。この特長により,ハードディスクドライブ用の読み出しヘッドや不揮発性メモリ(不揮発磁気抵抗効果型メモリ,MRAM)に応用され,近年の情報化社会の基盤技術として大きな貢献をしています。

このTMR素子の出力を左右するのは,TMR比(抵抗変化率)であり,その向上は,TMR素子のさらなる応用の幅を広げるために重要な課題の一つとなっています。そのために私たちが注目しているのは1~2 nm程度という極薄のバリア層に用いる材料です。これまでバリア層の材料として,アモルファスのAl2O3(アルミナ)や結晶質のMgO(酸化マグネシウム)が主として用いられてきました。しかし,それぞれに欠点がないわけではなく,例えば,Al2O3のTMR比は一般的に小さいという問題があり,MgOには潮解性という問題があります。加えてTMR素子に主に用いられる強磁性体(FeやCoFe合金,ホイスラー合金など)とMgOの結晶格子サイズには3~5%の違いがあるため,界面に多数の欠陥が入ってしますという問題もあります。このため,TMR素子のポテンシャルを最大限引き出すことが難しいわけです。例えば,情報読み出しに必要な数百mVのバイアス電圧印加時のTMR比は,ゼロ電圧で観測されるTMR比の半分程度に低下してしまうという問題が知られています。

本テーマでは,新バリア材料として正スピネル構造を有するMgAl2O4スピネル超薄膜(図2)の作製技術の確立を目指しています。このMgAl2O4は,私たちがCo2FeAl0.5Si0.5ホイスラー合金薄膜を用いたTMR素子の開発中に発見したもので,極薄のMg/Al膜をスパッタ法によって作製した後に酸素プラズマを用いて酸化させることによって得ることができます[文献1]。MgAl2O4は,Feやホイスラー合金などの材料に対して格子不整合が極めて小さいため(1%以下),界面に欠陥が非常に少ないエピタキシャル成長※1を実現できます(図3)。また,MgAl2O4には潮解性がなく,自然界に存在する非常に安定な材料であるため,素子化プロセス上のメリットがあります。さらに,最近ではMgAl2O4バリアを用いることで,TMR比がバイアス電圧印加で低下する問題を大幅に改善でき,同時に大きなTMR比の実現も可能であることを明らかにしました[文献2]。今後,作製方法の確立を行うとともに,詳細な伝導特性を明らかにすることで,より高いTMR比を示す素子作製を目指します。

※1:エピタキシャル成長:結晶体基板上に,基板と同じ方位関係を持った結晶層を成長させること

文献1:Demonstration of Half-Metallicity in Fermi-Level-Tuned Heusler Alloy Co2FeAl0.5Si0.5 at Room Temperature, R. Shan, H. Sukegawa, W. H. Wang, M. Kodzuka, T. Furubayashi, T. Ohkubo, S. Mitani, K. Inomata, and K. Hono, Phys. Rev. Lett. 102, 246601 (2009).

文献2:Tunnel Magnetoresistance with Improved Bias Voltage Dependence in Lattice-Matched Fe/Spinel MgAl2O4/Fe(001) Junctions, H. Sukegawa, H. Xiu, T. Ohkubo, T. Furubayashi, T. Niizeki, W. Wang, S. Kasai, S. Mitani, K. Inomata, and K. Hono, Appl. Phys. Lett. In-press (2010).


図1:TMR素子の模式図。磁界によって,2つの強磁性体の磁化方向(平行,反平行)を変えることによって抵抗変化が現れる。この抵抗変化率がTMR比である。


図2:MgAl2O4の結晶構造(AB2O4型)の模式図。


図3 MgO単結晶基板上に作製したFe/MgAl2O4/Fe構造を有するTMR素子の高解像断面透過電子顕微鏡(TEM)像。下部から上部まで結晶方位がそろって成長していることがわかる。


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