ボールミル法による土壌中からのセシウムの除去

常温、化学物質薬品で土壌からセシウムを除去

()物質・材料研究機構の原田幸明特命研究員と量子ビームユニット中性子散乱グループ加藤誠一主任研究員は、土壌中に固着されたセシウムをボールミルによるメカノケミカル反応で土壌中から相当量を遊離できることを確認し、その遊離したセシウム揮発物を吸着するために新たに発案したボールミルの構造と併せて、特許として申請した。
 この技術が広範に適用できれば、福島第一原子力発電所の事故により広範に拡散された放射性セシウムを土壌から分離することが、高温や化学薬品を使用せずにでき、セシウム除去後の土壌の再利用の可能性も広がり、汚染土壌の減容化に役立たせることができる

背景

図1 36万ペタベクレルのセシウムとその閉じ込めに必要な鉛のサイズ画像図1 36万ペタベクレルのセシウムとその閉じ込めに必要な鉛のサイズ
 福島第一原発で広域に拡散したセシウムは36万Tera Bq(36京Bq)と推定され、福島の農地だけでも5000Bq/kg以上の汚染土壌が8300ha、そのなかでも25000Bq/kg以上が2200haにも及ぶとされており(福島県「農地土壌の放射性物質濃度分布マップ関連調査報告」)、福島県で1μSv/h以上の土地2,373km2(うち森林62.6%, 農地26.5%)、さらに8μSv/h以上の土地490km2(うち森林68.5%, 農地20.4%)と見積もられ、この1μSv/h以上の土地面積の深さ5cmの土壌の量に換算すると約1.2億m3にも及ぶとされている(第2回環境回復検討会(平成23年9月27日)森口祐一委員提出資料)。また、さまざまな付着物からゴミや汚泥などの形で廃棄物処理施設等に集まってきた8000Bq/kg以上の指定廃棄物も、焼却灰の約1万7000トン、上下水の汚泥で4500トンと2万1000トンを超えている(「指定廃棄物の処理に向けた取り組み」環境省資料2012年6月5日資料3)。 この土壌をそのまま大量の汚染廃棄物として管理下に置くならば、その量は日本全国の一般廃棄物処理場の残余量すべてに相当する量であり、いかに減容化して最終処分の負担を少なくするかが大きなカギとなっている。大量の汚染を起こしているとはいえ、36万テラBqの放射性セシウムは、重量にして112.5kg、体積だと59.2Lでほぼ40cmの立方体のサイズしかない。さらに、これを鉛で覆うとして、10cmの距離で1mSv/y以下にするには23cmの鉛の厚さでよく、全体としても85cmの鉛の容器の中に納められる(図1)。最終的にこの85cm立方の中に放射性セシウムを戻すことができれば、これが理想的な除染であるが、これを困難にしているものに、希薄広域拡散の問題とその拡散先での土壌へのきわめて強固な固着の問題がある。 この土壌への強固な固着は、セシウムのより深い地下への浸透や、水への溶出を通じた拡散、さらには水溶液を経ての生物への汚染を防ぐうえで有益であったことは否めない。しかし、土壌中に残存し続けるということは、大地を母なる恵みとする我々にとって、それは長時間の放射線への暴露を意味するものであり、身の回りから取り除く必要がある。そしてこれまでの技術では、取り除かれるのはセシウムだけでなく、それをごく微量ずつ付着した土壌が大量に除染の対象となり、最終的な最終処分廃棄物の量として大きな問題になっている。すなわち、土壌からセシウムを取り出すことが出張れば、除染の対象は「汚染土壌」ではなくその中のセシウムとなり、最終処分量を大幅に削減できる。

これまでの技術的到達点と問題点

 土壌中のセシウムの形態は粘土鉱物の層間構造への永久荷電による静電吸着としてほぼ解明されてきている。セシウムをこま粘土物質の層間構造から取り出す方法でこれまで試みられてきたのは、化学的方法と熱的方法である。化学的方法では蓚酸、硝酸などを用いて沸騰温度近くまで加熱したり、そもそもセシウムが結合する以前に層間に存在していたマグネシウムイオンを含む硝酸マグネシウムを用いるなどで、層間隔を開きセシウムを取り出そうとするものである。多くの場合90%以上の収率が得られているが、化学薬品を使用するために、使用後の溶液の処理のみならず、土壌にも化学薬品が含まれて要処理廃棄物となってしまう問題がある。さらに土壌の処理の場合対象が大量となるため、単なる水を沸点近くまで加熱すると、たとえば土壌:水の比率1:50で一日に5トンの土壌を処理するとすると、水を過熱するだけで25MWhかかり、これは1500世帯分の一日の消費電力量になる。

 加熱法は、高温になると粘土鉱物が分解することと、セシウムが酸化物として揮発しやすいことを利用した方法である。しかしセシウムは揮発しやすいとはいえ土壌成分であるシリカやアルミナ、さらには空気中の二酸化炭素と反応し凝縮体となって留まるため、より化学的に安定状態となる塩化物を利用する方法が試みられている。その中でも多くの方法はセシウムを塩化物として揮発させるため1000℃以上の高温加熱が必要であるが、この研究と併せて行った溶融塩法では、より低温の500℃から700℃で、しかも揮散をおさえながらセシウムを溶融塩中に取り込み、それを水洗することで水溶液中にセシウムを取出し。高性能吸着材を用いて大幅な減容化を可能とした。

 しかし、この方法も塩を用いるため500℃~700℃といえども容器材料の問題があり、溶融塩原子炉で試みられているニッケル基合金のハステロイのような高価な材料を用いるか、アルミニウムやレアアースの製錬に用いるセラミクスを炉材とした溶融塩炉を大量の土壌処理を可能にできるように頑強にするか、などの課題を持っている。さらに、土壌に対して塩および水を大量に使用するため、適切な循環システムを構築することも必要である。

技術の内容

図2 三次元ボールミル画像図2 三次元ボールミル

今回開発した技術は、このような化学薬品や高温を使わず、常温の処理で土壌からセシウムを遊離させる方法である。それには、ボールミル、スタンプミルなどの微粒子粉砕技術を用い、粉砕のエネルギーで土壌中でセシウムを含む粘土物質に機械的な力を加えて変質させる、メカノケミカル反応を用いるものである。

 今回主として用いた装置は、3次元ボールミルと呼ぶボールミルの一種である。この三次元ボールミルは都市鉱山の開発用に携帯電話機などから希少金属を粉砕し取り出すために開発したものであるが、次のような特徴を持つため土壌のメカノケミカル反応に有効であると考えて使用した。

 図2は三次元ボールミルの外観である、真ん中の球状のポットに粉砕用のボール(今回は鋼球)を入れて回転させるものである。転動ミルとよばれる通常のボールミルは、回転軸が水平方向に一つだが、この三次元ボールミルは垂直な二つの回転軸を持っている。回転軸が一つの場合は、回転数を増すと遊園地のローターのように鋼球が遠心力で壁に張り付き仕事をしなくなる「臨界回転」という状態になるため、それ以上にエネルギーをかけても無駄になるだけだが、三次元ボールミルでは、もう一つの軸の回転が鋼球が壁に張り付くことを防ぎ、かけたエネルギーがそのまま鋼球の運動になって、その鋼球間の衝突で中の粉砕物に高いエネルギーを与えることができる。なお、臨界回転を与えない方法として地球と月のように平行な二つの軸を持った遊星ボールミルというものも存在するが、重力方向には作用しないため底部に滞留した粒子はほとんど力を受けない場合がある。
図3 ミリング処理による土壌中のセシウム減少画像図3 ミリング処理による土壌中のセシウム減少

今回の処理条件は、直径20cmの準球形のステンレス製ポットに17.4mmφの鋼球40個を入れたものを用い、第一軸、第二軸とも回転速度240rpmで処理し、30分および60分で試料をサンプリングし、その放射性セシウム量を測定した。スタンプミルはポット径10cm、スタンプバー高さ5cmからの落下で行ない、一時間処理後の試料をサンプリングし、その放射性セシウム量を測定した。

 その結果を図3に示す。スタンプミルでもセシウムの減少が認められるが、三次元ボールミルで処理したものは、60分で半分近間のセシウムが土壌から遊離している。現時点では粘土物質にどのようなメカノケミカル反応を起こさせているかは明らかにできておらず、また土壌の種類による違いなども検討しなければならないが、メカノケミカル反応で土壌中からセシウムを遊離できるということは確かである。これから、多くの研究者がこの土壌中セシウムのメカノケミカル反応のメカニズムに取り組み、最適条件を明らかにし、実際の土壌からのセシウム除去の処理に結びつくことを期待する。


塩の影響

図4 食塩添加量のセシウム減少に対する影響 (60分ミリング)画像図4 食塩添加量のセシウム減少に対する影響 (60分ミリング)

溶融塩法の開発において、溶融塩形成以下の温度でも食塩(NaCl)の添加により土壌中からセシウムが揮発することが見出されている。ボールミル処理も基本的には固相反応であるため、その食塩添加の効果も確認しておいた。その結果は図4に示すものであり、土壌に対して食塩を200%添加した場合には、50%を超えるセシウムの遊離が見られたが、これは土壌の2倍の量であり、食塩の化学的な効果か硬質の食塩粒子によるミリングの機械的な効果かはこれだけでは判断できないと考えている。


遊離セシウムの処理

図5 吸着材の挿入画像図5 吸着材の挿入

 メカノケミカル反応で粘土鉱物が変化し遊離したセシウムは、少なくとも土壌の放射線量の低下として計量された分は気相中に揮散したものとみなせる。(なお、ボールミル作業の近傍で線量計でモニタリングしたが、バックグラウンドに対して有意な変化は見出していない。) このままでは、土壌からセシウムを取り出したもののそれを大気中に揮散させているだけでは意味がない。そこで、ボールミルの形状的特徴を生かして、揮散したガス状のセシウムもしくはセシウム酸化物を吸着するシステムを考案し、実験でその可能性を調べた。

 ボールミルの形状的特徴とは、ボールミルがある程度の回転速度になれば、その中心部分に空間が生じることである。その中心の部分に気相からセシウムを吸着することのできる吸着材を配するならば、吸着材はボールミルの運動で粉砕されることなくポット内に存在し、メカノケミカル反応を起こした土壌から遊離して揮散したセシウムをポット内で捕獲することができる。図5の上図はその概念図であり、下の左から吸着体を濾紙にくるんだ吸着体パッケージ、さらにそれをティーバックにくるんだ吸着体パッケージ保護バッグ、さらにそのバッグを入れる金網製の保護ケースであり、保護ケースは鋼球の数倍の直径でボールミルの中心部に鋼球から浮いて動くようにしている。また吸着材パッケージは、微細分の付着による放射線量増加分を控除できるように、吸着材を入れたものと、吸着材抜きのダミーを吸着体パッケージ保護バック中に一緒に入れるようにした。


図6 吸着材の吸着能画像図6 吸着材の吸着能

 図6左は吸着剤としてバーミキュライトを用いた場合であり、ダミーと比較してほんのわずかに差があるものの有意差か否かは判断しがたい。それに対して図6右は塩添加量の異なる二つの実験条件で60分ミリングしたものに対するバーミキュライトの結果とSherif El-Safty主幹研究員が開発したHOM-MOxを用いたものを比較したものである。HOM-MOxが気相中でのセシウム吸着の可能性があるといえる。


今後の展開と方向性

図8 分級とボールミル処理、溶融塩法を組み合わせた汚染土壌の管理の例画像図8 分級とボールミル処理、溶融塩法を組み合わせた汚染土壌の管理の例

 今回の実験では二つの可能性が明らかになった。ひとつはボールミルなどのミリングのメカノケミカル反応で土壌中のセシウムを気体中に遊離させる可能性であり、他のひとつは気体中に遊離したセシウムをHOM-MOxを用いて吸着できる可能性である。これらはいずれも実験数としてはまだ少なく、土壌の種類による依存性の確認、処理条件による離脱能の違いとそのパラメータ化など実用面だけでもまだ確認せねばならないことが多いが、なによりもまして、大量の土壌の処理に適用できることが重要になる。三次元ボールミルは回転軸が二つあるために構造が複雑となるため、それを大型にできる技術、また土壌の挿入や取出しなどを簡便化する技術と結びつけることがカギになる。構造的に簡単で大型化も可能な転動ミルを持ちいる場合は臨界回転までしか回転によるエネルギーを上げることができないために、最適条件をいかに見出すかが課題となる。

 気相中の吸着については、吸着材の性能向上とともに、メカノケミカル反応でセシウムが気相中に遊離するメカニズムを明らかにしていくことが吸着・固定化率の向上にとって必要であろう。また、気相中に揮発させるのではなく、湿式ボールミリングで液相中にセシウムを溶け出させる可能性も追求すべきである。

 このような処理を行う場合に、処理能力を上げるだけでなく、逆に処理対象を少なくする方向からのアプローチもある。すなわち、セシウムが土壌中の成分の中でも粒径の微細な粘土鉱物に固定化されていることを生かして、分級と洗浄で処理対象を少なくし、そこにメカノケミカル処理を施すことが考えられる。図8は、実際の土壌の粒度分布とその放射能量の一例である。全体では23,600Bq/kgであったこの土壌も、重量の40%以上を占め

0.5mm以上の土壌粒子は全体の線量の4%にも満たず、2340Bq/kgと指定廃棄物のレベルを下回っており、重量の43%を占める0.5mmから67μmの土壌粒子が、34,300Bq/kg、さらに重量では15%67μm以下の微粒子に52,800Bq/kgと全体の34%の線量をしめている。ここで、このように分級処理を行うことで、8000Bq/kg以上の線量を持つ土壌が40%削減される。さらに、最も線量の高い部分を溶融塩法を用いてセシウムをそこから抽出すると、その抽出率を9割とみるならば、土壌中に残存するセシウムは5,300Bq/kgと指定廃棄物の8000Bq/kgを下回る。より量の多い、0.5mm67μmのものを、ボールミル処理にかけてセシウム量を半減させると、線量が低下するために、遮蔽のために覆うのに必要な土壌の量を削減することができる。(なお、土壌の半価層厚みを9.62cmとし、表面で200Bq/Kg相当になるように覆うことを想定した。) さらに、低汚染の土壌やセシウム抽出後の土壌を非汚染土壌の替りにある程度用いることもできる。この土壌をなにも処理しないまま非汚染の土壌で覆った場合には、図8の左下のように二倍近い埋め立て場所と、同じく二倍近い非汚染土壌による覆土が必要となる。


図9 汚染土壌の最終処分量を減らすひとつの方法画像図9 汚染土壌の最終処分量を減らすひとつの方法
 このように、「洗浄」、「分級」、「ボールミル処理」、「溶融塩法」を組み合わせることで、より濃度の高いセシウムを管理可能なきわめて狭い領域の中に閉じ込めつつ、低濃度汚染土壌を活用しながら全体としての処理量の減容化を図っていくことができる。現

在の除染は、身近に目の前にある放射線汚染物自体を取り除くことに注意が行っているが、これをゴミと比較した場合、ゴミを目の前から取り除くだけでは問題は解決していないというのは明らかである。ゴミに対する循環型社会形成の努力は、リサイクルを増やし、最終処分を少なくするという方向でごみ問題を解決していくことを進めてきた。除染においても、この循環型社会にむけた取り組みの経験を生かして、より本質的、より効果的に進めるべきであり、そのために「洗浄」、「分級」、「ボールミル処理」、「溶融塩法」などを組み合わせた効果的なシステムを目指していく必要がある。その際、こうして分級、除染したものを資源として活用する発想も必要であろう。図7はその一例で、処理された低濃度汚染土を中濃度汚染度の遮蔽体として使用しながら、全体として津波対策用の防潮堤等の土木構造体を形成していくアイデアである。農地や、運動場などの除染で、「天地返し」とよばれるより深層の非汚染土壌を使って汚染土壌を遮蔽し表層は以前どおりのほとんど無汚染状態でかつ周りへの汚染物の拡散もない状態で使用する方法を、特定の国などの管理できる場所に適用するという考えである。これには強度や安全性の問題や長期間の管理などクリアすべき課題も多く残されているが、今回の「ボールミル処理」などを単純な「目の前の土壌からのセシウム除去」と考えるのではなく、汚染土壌の低濃度化、減容化に向けたシステムの位置構成要素として利用して問題解決に役立てていただきたい。




お問い合わせ先

(独)物質・材料研究機構 特命研究員
          原田幸明
   TEL 029-859-2668

E-Mail: HALADA.Kohmei=nims.go.jp(「=」を「@」に変更してください)
量子ビームユニット 中性子散乱グループ 主任研究員 加藤誠一
029-859-2816
現在米国オークリッジ国立研究所に長期出張中。3月14日帰国予定
E-Mail: KATO.Seiichi=nims.go.jp(「=」を「@」に変更してください)

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