「超伝導」って知ってますか。
医療用の超伝導MRIや超伝導リニアモーターカーなど、なんとなく聞いたことはあるけれど、実際どういうことかわからないという人も多いのでは?
超伝導の奇妙な性質
超伝導とは、簡単に言うと、物質の電気抵抗がゼロになって電気を非常に流しやすくなる現象のこと。
今のところ超低温でしか見られないのですが、電気抵抗ゼロということは電流を流してもエネルギーを失わないということなので、将来の電力輸送の方法としてとても期待されているんです。今の送電線だと、せっかく発電所でつくった電力も、日本全体で5~6%もロスがあるって知ってました?
話が少しそれましたが、超伝導にはそのほかにもいろいろ奇妙な性質があります。マイスナー効果とピン止め効果という現象もその性質のうちのひとつ。
今回は、映像作品『未来の科学者たちへ #01 超伝導』で見ていただいた「超伝導のピン止め効果」について、少し説明をしてみましょう。
タネも仕掛けもあったピン止め効果
まず、マイスナー効果(マイスナー・オクセンフェルト効果)とは、磁場のなかに超伝導体をおいたときに、磁場を超伝導体の中から外に押し出してしまう現象です。このため超伝導体に磁石を近づけると、反発して離れようとします。
ただし、磁場が強ければ押し出すためのエネルギーも大きくなります。第2種と呼ばれるグループの超伝導体では、ところどころに超伝導にならない部分ができて、磁場はそこを通り抜けてしまいます。そうすると周りが超伝導であるので、そこからもう動くことはできません。ピン止めされたように動けなくなってしまいます。
ちょっとわかりにくいでしょうか?
言いかえれば、超伝導材料という物質は、冷却されて超伝導になると、自分が置かれていた磁場を記憶するという性質があるんです。
磁石があるとそこに磁場ができます。その磁石と超伝導体との間の位置を固定すると、超伝導状態になったときに、超伝導体がその磁場の強さを覚えてしまうわけです。なので、磁石の位置をずらすと、記憶された磁場による復元力が働いて、元の位置に戻ろうとします。
この磁石を固定する復元力についてもう少し説明しましょう。
磁石が超伝導体に近づこうとするということは、超伝導体に対して磁場が強くなるということですよね。逆に磁石が離れていくということは、超伝導体からみると磁場がどんどん弱くなっていくということ。でも、超伝導体はそのときの磁場を保つように記憶されているので、そのどちらもできない。
だから、近づこうとすれば磁場の強さと位置を保つために反発しようとするし、遠ざかろうとすれば逆にひきつける力が働くわけです。そのために磁石の位置が記憶されたように見えるのです。
ですから、たとえば磁石をぴったりくっつけた状態で固定すれば、ぴったりついた状態を記憶しますし、何かを間に挟んでおいて固定すれば、スペーサーを間に挟んだその位置を覚える。
つまり、今回の映像は、あらかじめ超伝導体の上にスペーサーをおいて、さらにその上に磁石をのせて冷却し、その位置を記憶させていたんですね。
そうすると、スペーサーをはずしていったん磁石をどけても超伝導体はその位置をずっと覚えているので、もう一度磁石をのせてみると、スペーサーがなくてももとの位置に固定されます。だから、ゆすっても宙に浮いたその位置から動かないし、ひっくり返しても落ちません。
これは、普通の磁石を使って、ひきつける力と反発する力をうまく調節してやろうとしてもできません。超伝導の反磁性という性質、つまり磁石から逃げていこうという性質を使わないと、この現象を見ることはできないんです。
これが超伝導の反磁性からくる「ピン止め効果」という非常に特徴的な性質です。
解説:小森和範(NIMS) 編:田坂苑子(NIMS)
液体窒素で超伝導体を冷やす小森かずのり先生