Photo by Nacasa & Partners Inc.

LED電球

LEDって、きいたことがありますか。

電気屋さんに行くと、このことばがあふれています。電球が切れてとりかえようと思ったとき、売り場に白熱電灯、蛍光灯、それにLED電球があって、どれにしようか迷ったことがある方もいるでしょう。家庭の電球なら、切れてしまってもすぐに換えられるので値段の安い白熱電球にしてしまうという方もいるかもしれません。LED電球は、まだ値段が高いので手を出しにくいのですが、いったん使い始めれば、切れたりすることはありません。半永久的に光を灯しつづけるといってもよいほどです。

LED電球は未来の照明としていま注目を集めています。

実はこのLED電球を光らせる材料が、自動車のエンジンからつくられたといったら、皆さんはビックリするでしょうか。

自動車のエンジン

NIMSの研究者 広崎尚登さんは、大学でセラミックについて勉強し、自動車のエンジンをセラミックでつくってみたいと考えていました。そこで卒業してから自動車会社に入り、何人かの仲間とセラミックスエンジンの開発にとりかかりました。

セラミックスにはたくさんの種類がありますが、広崎さんたちはサイアロン(SiAlON)という物質をえらんで研究をはじめました。5年ほどかかってエンジンは完成。車に載せて走らせることにも成功しました。残念ながらその頃自動車は安くないと売れない時期だったため、会社は値段の高いセラミックエンジンを商品にするのを諦めてしまいました。

広崎さんは、材料についてもっと基礎的な研究をしたいと考えて、無機材質研究所(NIMSの前身)に入りました。サイアロンをもっと調べてみたかったからです。

サイアロン蛍光体 / Photo by Nacasa and Partners

サイアロンはもともと機械部品で、丈夫な構造と高温に耐えるという特徴をもっていました。ただ、セラミックスには、結晶に光を出す金属を少量加えると、蛍光体になるという性質があります。サイアロンにもユウロピウム(Eu)という金属を入れるとぼうっと光ります。

広崎さんはサイアロンの蛍光体がLEDの色の調整に役立つのではないかと考えました。蛍光体は光の色作りをになう重要な材料です。それまでのLEDでは、黄色の蛍光体が使われていて、LEDチップの青い光と蛍光体の黄色い光が混ざり合って、全体として白色の光を作り出していました。そのため、赤い光が不足していて、赤色蛍光体が必要だったのです。

サイアロンRGB / Photo by Nacasa and Partners Inc.

広崎さんたちは、サイアロンの結晶といろいろな物質の組み合わせを8000個もつくって実験しました。その努力のかいあって、赤色を出すカズン(CASN)蛍光体を開発することができました。

この、サイアロン蛍光体は、いまほとんどのLEDにつかわれて、あの美しい色を出しているのです。

LEDが使われているのは、一つはディスプレイ。液晶テレビの大部分に、画面をきれいにするために組み込まれています。

もう一つは前にも述べた照明です。世界的にみれば年間10兆円といわれる市場が、ほぼLEDで占められるようになるでしょう。今はまだ少し高いですが、半導体なのでたくさん使われるようになれば、値段はどんどん下がって行きます。また、いろいろな結晶を組み合わせてできている固体素子なので、電球や蛍光灯のように劣化することがありません。

病院や高層ビルのように照明をたくさんつかって、それを常につけ続けているようなところは交換がたいへんなので、LEDが絶対有利です。

高層ビル

広崎さんはこんなことを言っています。
「研究のやりがいは、想像もつかないことを見つけて、皆さんを驚かすことだと思います。他の人がやらないテーマにこだわって、私の場合、窒化物の合成を自分の領域として、さまざまな特性を追い求めて、用途に合った新材料を探すことがライフワークです。」

(取材・文 えとりあきお)