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極低温ローレンツ電子顕微鏡の開発と、強相関電子系材料への応用−極低温でスピンを可視化する−
松井良夫(ナノ計測センター先端電子顕微鏡グループグループリーダー)
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ナノ計測センター先端電子顕微鏡グループは桜サブグループ(旧金材技研G)と並木サブグループ(旧無機材研G)で構成される。本講演では演者が属する並木サブグループでの最近の研究成果、特に極低温ローレンツ電顕の成果について報告する。旧無機材研では1986年の酸化物超伝導体の発見を契機として、高分解能電子顕微鏡と粉末X線・中性子線回折の複合による、多結晶体を前提とする強力な構造解析体制を構築した。その中心をなしたのが1989年度導入の超高分解能超高圧電顕(H-1500:最高1300kV)で、特に90年代に入って盛んになった高圧安定型酸化物超伝導体の構造評価では主導的役割を果たした。一方、90年代も後半に入ると、マンガン酸化物の超巨大磁気抵抗(CMR)効果が脚光を浴び、その起因として電荷・軌道秩序や、強磁性・反強磁性転移等の極低温特殊構造の解明に注目が集まり、我々は試料を磁場フリーとする「極低温ローレンツ電子顕微鏡」を導入、その後の極低温構造研究に多大な貢献をするに至った。こうした、マンガン酸化物に代表される「強相関電子系」への先端電子顕微鏡の応用研究は、主としてERATO十倉スピン超構造プロジェクト、並びにマルチフェロイックスプロジェクトとの密接な連携に基づくもので、文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクト(現ナノネット)の大きな支援成果ともなった。
今回の講演においては、極低温ローレンツ電子顕微鏡により得られた、いくつかの事例を通して、極低温下で引き起こされるさまざまの物理現象、とりわけスピン配列の可視化技術の最先端を紹介したい。