電子線ホログラフィーによるInGaN/GaN量子井戸構造とEBIDナノ構造の観察
竹口 雅樹(ナノ計測センター先端電子顕微鏡グループ 主幹研究員)
- 電子線ホログラフィーは、透過型電子顕微鏡(TEM)内において、電子波干渉装置(電子線バイプリズム)を組み込むことによって行うことが出来る。試料を透過した電子線の位相を定量的に測定することが可能であるため、電子線に位相変化をもたらす電場や磁場の情報を調べるのに有効である。本講演では、電子線ホログラフィーについて簡単に紹介し、我々のグループで行っている応用研究例について代表的なもの2つを紹介する。
1.InGaN/GaN量子井戸構造におけるIn組成、格子歪および内部電界のマッピング
GaN/InGaN量子井戸構造においてInは組成揺らぎを示す。GaN系材料は圧電性が強いため量子井戸内には圧電電界が形成されるが、In組成揺らぎは格子歪を伴うため、これによって電界分布もまた不均一となってバンド幅がブロードとなってしまう可能性がある。これまでInリッチ相の分布と電界分布の不均一性との相関を調べられた研究はなかったため、本研究では透過型電子顕微鏡法と電子線ホログラフィーを用いナノメートルサイズのInの組成の揺らぎとそれに伴う圧電電界の分布の関係を比較した。
2.電子線誘起蒸着(EBID)によるナノ構造の作製と電子顕微鏡評価
電子線誘起蒸着(EBID)は、有機金属ガスを試料基板近傍に流しながらナノメートルサイズの電子ビームを照射することによって金属ガスを分解し、金属を基板に蒸着する手法である。磁性元素を含むガスを用いることによって、任意の位置に任意の形状の磁性ナノ構造を形成することができると期待される。鉄カルボニルガスFe(CO)5を原料ガスに用いて形成されたFe含有ナノ構造の組成や構造、磁性について、透過型電子顕微鏡法および電子線ホログラフィーを用いて評価した。