16:00-17:00
炭素蒸着を利用した固体同士の反応その場解析
石川信博(ナノ計測センター先端電子顕微鏡グループ)
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酸化鉄の還元は高炉製鉄法の基礎となる反応であり、種々の手段を用いてこのプロセスに関する研究が行われてきている。これまでTEMを利用した酸化鉄の還元に関する研究としては、一酸化炭素や水素などのガス雰囲気を作るか、イオン注入によって強制的に試料中に還元剤を打ち込む試みが行われてきた。しかしこれらの実験はガス還元に限定して行われてきた。これは製錬の効率を考える上でガスによる反応が有利と考えられてきたためでもあると思われる。一方製鉄用還元剤の主原料となるコークス(固体炭素)による直接還元も同時進行するがこれをTEM内で調べた実験例はこれまで報告されていない。本研究では炭素蒸着を利用して炭素と酸化鉄の接触面を確保しながらTEM試料を作製し、TEM内その場観察を可能にした。
実験に供した試料は主にウスタイト(FeO)であり、これに炭素を蒸着した試料を一定の温度に保持してTEM内で観察を行った。工業上では1000度以上の高温で還元を起こしているが、TEMでは高倍率のため熱ドリフトをはじめとしてかなり低速で反応が起きても視野をすぐはみ出してしまうため、おおむね500-800度の範囲で行った。その結果、炭素中に鉄が析出、成長する様子が観察され、高温ほど速くなることを確認した。また高炉内での添加剤を想定して、酸化カルシウム、アルミナ、シリカなどを添加した試料についても同様の観察を行った。その結果いずれの添加剤でも鉄の生成を抑制する結果が得られた。
また、本手法を別の材料に応用した例も紹介する予定である。