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ナノ薄膜における非破壊深さ分析を目指した高エネルギー角度分解光電子分光計測
吉川 英樹(ナノ計測センター先端表面化学分析グループ主幹研究員)
- 数十nm以下の厚みをもつナノ薄膜はナノテク・デバイスの機能を担っている重要な部位であるため、ナノ薄膜の電子構造、化学結合状態、接合界面のバンドの状態等を非破壊で知ることは、物性研究だけでなくデバイス開発の観点でも非常に重要である。特に、ナノ薄膜の断層解析は、先端的なナノ計測技術として、その解析法自身が研究対象となっている。近年、これらのナノ薄膜の非破壊断層解析にとって、3〜8keV領域での高エネルギーのX線を使った光電子分光法、特にその角度分解測定が非常に強力であることが認識されるようになってきた。高エネルギーの光電子分光は、原子層レベルで表面敏感であるという光電子分光の常識を破り、薄膜分析やバルク分析と位置づけられるほどの観察深さと深さ分解能を持つ。なお、これにはSPring-8のような高輝度な放射光光源の果たす役割が大きい。
ただし、このようなハードウェアの目覚ましい進展にも関わらず、その実験データを解析する際に必要な種々の物理パラメーターの精度の確認がなされていない実情がある。例えば、角度分解測定結果に強い影響を与える光電子発生時の角度分布、いわゆる"非対称パラメータ"ですら、高エネルギーX線領域でどうなるか、X線の偏光依存性はどの程度かという検証が実験的になされていない。
本発表では、数十nm以下の厚みをもつナノ薄膜の定量的な非破壊断層解析を目的として、SPring-8における高エネルギー角度分解光電子分光の実例を紹介すると共に、高エネルギーの直線偏光X線における非対称パラメータの精密測定の結果を示し、非対称パラメータにおける多極子遷移成分が無視できないことを紹介する。最後に、電子スペクトルのシミュレーター開発の概要を紹介する。