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ご挨拶、ナノ計測センターの概要紹介
藤田大介 (ナノ計測センター長)
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物質・材料研究機構ナノ計測センターは平成18年4月に発足した新しい研究センターです。私達は、表面・表層から固体内部に至るまでの包括的なナノ計測技術の開発を推進しており、ナノスケールでの物質・材料研究に役立つ手法とデータの提供を目指しています。
特に、物質材料のナノ構造と新規機能を明らかにするため、材料創製と機能発現のための走査型プローブ顕微鏡、超高分解能の電子顕微鏡、強磁場を利用した高分解能の核磁気共鳴(NMR)、超高速の時間分解計測技術、広域かつ表層の3次元ナノ解析技術などの先端ナノ計測技術を開発しています。
今回のイブニングセミナーでは、特に、原子分解能イメージングを実現する走査型トンネル顕微鏡技術とフェムト秒スケールでの物性解析を実現する超高速時間分解計測技術という2種類の極限計測技術によるナノ物質・材料研究への応用と展開について、最近の研究成果を中心にご紹介したいと思います。
金属ナノ構造における表面局在プラズモンの観察
北島正弘 (超高速現象計測グループリーダー)
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金や銀などの金属微粒子およびそれを配列した構造体は,新規な電子・光物性や 化学的性質で注目される。
特に表面プラズモン(SP:surface plasmon)を利用して光デバイス(プラズモン導波路、光回路素子等)、表面センサーおよび分子・バイオセンサーなど、様々な応用が期待されている。このような表面プラズモンの励起状態は近接場分光や光電子顕微鏡技術の発展によって明らかとなって来つつある。
本セミナーでは、金属ナノ構造における表面プラズモンおよびそれと深く関連する表面増強ラマンの観察に関する最近の研究動向を紹介し、表面プラズモンの励起(運動)状態の性質について議論する。
「ナノの世界で観る、操る、造る」ための走査型トンネル顕微鏡技術
藤田大介 (ナノ計測センター長)
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ナノテクノロジーの基盤となる技術が、原子レベルで物質を観る・制御する・創る技術です。私達は、これらを融合した“ナノ実験工場”のような技術の実現を目指しています。そのためには、ナノの世界での機能や仕組みをきちんと理解することが重要であり、原子が観察できる様々な走査型トンネル顕微鏡(STM)を開発しています。
例えば、シリコン(100)表面はナノエレクトロニクスの基板として最重要材料ですが、その極低温での原子構造は長い間未解明でした。私たちは極低温で原子をきちんと観ることができるSTM計測技術により、初めて安定な構造を決めることができました。“産業のコメ”とも呼ばれるシリコンの最も安定な構造がわかることにより、精密なプロセスのシミュレーションも可能になり、基礎と応用の両面で大きな貢献をしております。
さらに、STM顕微鏡は原子や原子の塊(クラスター)を操作したり、造ったりすることもできます。電子の動きを妨げるように原子を配置することにより、人工的に電子を閉じ込める構造を造ることもできます。さらに、その中の電子の波を見ることもできるのです。
このような人類の夢を実現するような基礎研究と同時に、工業的な応用を目指した様々な研究開発も行っています。最近、新しいナノカーボン薄膜の創製方法を開発しましたが、自己再生可能、低ガス放出性、低2次電子放出性などの機能を持っており、新しいSTM探針材料や極高真空材料など、次世代計測機器への応用を目指しています。