ローレンツ電子顕微鏡法による強相関系磁性材料の磁区構造観察

1. はじめに

 最近の先端機能性材料開発の一つの流れとして,複雑な結晶構造や電子構造を生かし,小さな刺激(外場印可)で大きな効果(外場応答)を得たり,入力した刺激とは異なる種類の効果を引き出すような物質の開発があります.その様な物質群の代表が銅酸化物高温超伝導体や超巨大磁気抵抗効果を示すマンガン酸化物といった強相関電子系酸化物であり,基礎,応用の両面から注目を集めています.1) 強相関電子系酸化物の多彩な物性の多くは結晶構造と電子の電荷やスピンさらには軌道の状態とが結びついて発現していることが知られており,これらのミクロスコピックな状態がマクロスコピックな状態,性質へと反映しています.そして最近では電荷?スピン?軌道が結びついて発現した電気磁気的状態が空間的に相分離し,それが強相関電子系物質の巨大応答に密接に関係しているとされています.このように電子構造と結晶構造が結びつき,さらに空間的に不均一である系に対する研究において,高い空間分解能で,動的に観察を行うことができる透過型電子顕微鏡法は非常に有用であると考えられます.

 強相関電子系マンガン酸化物における超巨大磁気抵抗効果や電荷整列の磁場による融解には強磁性金属状態の出現が密接に関係しています.そして,その強磁性金属状態は基本的には二重交換相互作用で説明されます.2),3) 二重交換相互作用の詳細については他の文献4)を参考にして頂きたいのですが,極々簡単には,局在電子と強磁性的スピン結合(フント結合)した伝導電子が隣のサイトへ飛び移るとき(このとき,伝導電子のスピンの方向は変化しません),自身の運動エネルギーを得するように各局在電子間のスピンの向きを強磁性的に揃えるような作用です.その結果,系は強磁性金属状態となります.一方,そのような強磁性金属状態における磁区と磁壁はそのバルクでの磁性のみならず,電気的性質にも影響を及ぼします.例えば,最近,マンガン酸化物の磁壁における電気抵抗が,単純な二重交換相互作用から期待される値より数桁大きい値を示すという実験結果が報告されました.5) さらに,伝導電子の磁壁での散乱が磁気抵抗効果の起因になりうるという実験結果6) や理論的考察7),8) もあります.このように強相関酸化物における磁区や磁壁は物性に大きな影響を及ぼし,その構造を調べることは極めて重要であるといえます.

 強磁性体の磁区構造を観察する手法はビッター法9) をはじめとして,カー顕微鏡10) やファラデー顕微鏡11) などの磁気光学的手法,スピン偏極SEM12),スピン偏極STM13), 磁気力顕微鏡14) など多々ありますが,なかでもローレンツ電子顕微鏡法15) は比較的容易に高い空間分解能で磁区観察できる利点をもっています.さらに動的観察が可能であることもローレンツ電子顕微鏡法の利点のひとつです.また,ローレンツ電子顕微鏡は透過型電子顕微鏡を基本とするために磁区構造と結晶学的構造との関連を調べるのに非常に適しています.観察試料は薄膜化しなくてはならいものの,観察にへき開面などを用いる必要はないので結晶方位に依存することなく多種の試料を扱うことができ,観察試料の作製も比較的簡単です.さらに試料を透過した電子を観察に用いるので,試料内部の磁気に関する情報を取得することになり,他の手法と比較して表面敏感でないという利点も有すります.ただ,薄膜化したことによる形状効果(薄膜効果)は,常に念頭に置いておかなくてはなりません.

 我々はマンガン系を始めとする強相関電子系物質の電荷軌道整列構造の解析や相分離の研究を透過型電子顕微鏡により行ってきましたが,その過程でローレンツ電子顕微鏡による磁区構造解析がこのような物質群についても有効であることが分かり,以来研究を続けています.本稿では,良く知られた強相関電子系物質であるペロブスカイト型Nd1/2Sr1/2MnO3とダブルペロブスカイト型Ba2FeMoO6の磁区構造解析16),17) を例に取り上げ,ローレンツ電子顕微鏡法の利点に触れつつ,これまでの研究の一端を紹介していきます.


2. 実験手法について

 本研究には,磁区観察専用の対物レンズを備えたローレンツ電子顕微鏡(Hitachi HF-3000L)が用いられました.通常の電子顕微鏡では,試料は対物レンズから生じる約2テスラの磁場中に置かれるため,本来の磁気構造が変えられてしまう可能性があります.これに対して,ローレンツ電子顕微鏡では試料位置に磁場がかからないように設計した特別な対物レンズを用いて,磁場ゼロでの磁気(磁区)構造が観察可能です.そのかわりローレンツ電子顕微鏡では高分解能電顕像の観察は困難です.なお我々の用いているローレンツ電子顕微鏡は外部磁場印加機構により,ゼロから約200ガウスまでの弱磁場の印加が可能となっています.



 
図1(a)-(e)

図1 フレネル法の結像原理を表す模式図と結像例.(a) 電子線の行路と (b) 像面での電子の強度分布.フレネル法での (c) 不足焦点像,(d) 正焦点像,(e) 過焦点像. (Schematic description of principle and images in Fresnel method. (a) Tracks of electron beam, and (b) the distribution of intensity of electron on the image plane. Fresnel images taken with (c) underfocus, (d) in-focus, and (e) overfocus.)


 
 ローレンツ電子顕微鏡法における磁区(磁壁)構造の観察方法は主なものとして二つあり,一つはFresnel(フレネル)法(あるいはde-focus法),もう一つはFoucault(フーコー)法(あるいはin-focus法)と呼ばれています.ここでそれぞれの結像原理を簡単に述べることにします.18),19) まず,フレネル法であるが,図1のように磁化の向きが互いに反平行の磁区が互い違いに並んだような磁区構造(180° 磁区)をもった強磁性試料の場合を考えます.このような試料に電子が入射すると,それぞれの磁区内部の磁化に応じたローレンツ力により透過電子は偏向を受け,図1のように電子密度の疎密が生じます.電子顕微鏡の焦点をずらし,例えば過焦点(overfocus)の条件では図1(a)のA-Bでの像面を見ることになり,電子の疎密が図1(b)のA-Bのように表せられます.また逆に不足焦点(underfocus)の場合,今度は図1(a)のC-Dでの像面を観察することになり,電子の疎密も図1(b)のC-DのようにA-Bとは反転したものとなります.ここで,電子が疎のところを発散像,密のところを収束像と呼びます.発散像と収束像は共に磁壁の位置に対応します.これらの発散像と収束像は焦点を合わせると(図1(a)ではちょうど試料面が焦点の合っている位置)観察されません.図1(c)-(e) にフレネル法での結像例を示しました.試料は典型的な強相関電子系マンガン酸化物であるLa0.7Sr0.3MnO3で上から順に不足焦点,正焦点,過焦点のローレンツ像です.試料を左右に横切る白い曲線と黒い曲線が不足焦点と過焦点の像では観察されます.また,これらのコントラストは不足焦点と過焦点では反転しており,正焦点の像では観察されません.これらのことより白い曲線と黒い曲線は収束像と発散像であり,磁壁のコントラストを示していると判断できます.ここで,全ての像で現れている黒い曲線は等傾角干渉縞で,磁壁のコントラストではありません.





図2(a)-(c)

図2 フーコー法の結像原理を表す模式図 (a) と結像例 (b, c).(b) の挿入像は後焦点面上のダイレクトビーム像.(b) の像はダイレクトビーム1を用いて,(c) の像はダイレクトビーム2を用いて結像した. ((a) Schematic description of principle and (b, c) images in Foucault method. Inset of (b) is the direct-beam image on a back focal plane. Foucault image (b) and (c) were obtained from the direct beam 1 and 2, respectively.)



 
 次にフーコー法であるが,フレネル法と同様に180° 磁区に入射し,ローレンツ力によって偏向した電子の様子は電子顕微鏡の後焦点面(電子回折図形が形成される面)上でも観察可能であり,透過スポットと回折スポットの分裂という形で現れます.図2(a)にそのような場合を模式的に示したが,異なる向きの磁化をもった磁区を透過した電子は後焦点面上で別々の点に焦点を結ぶことがわかります.そこで(対物)絞りを用いて,一方の透過スポットのみを選び,つまり逆の一方は絞りにより遮り,一種の暗視野法のように結像する方法がフーコー法です.図2(b)と2(c)にフーコー法での結像例を示しました.図2(b)右上の挿入図は透過スポットの分裂の様子を表し,図2(b)と2(c)はそれぞれ透過スポット1と2を選んだ場合のフーコー像です.これらの像中で白く光っている部分が選択したスポットに対応する磁区で黒く暗い部分は遮られたスポットに対応しています.よって,1と2いずれかを選ぶことによりフーコー像のコントラストは反転しています.以上より分かるようにフレネル法は磁壁のコントラストを得る方法であるのに対して,フーコー法は磁区のコントラストを得る方法です.また,フレネル法は磁化に対する感度が良いために空間的な磁気ゆらぎなどを観察するのに適している他,動的観察が可能である点などが利点として挙げられます.対してフーコー法は正焦点で観察するために空間分解能が高い(数nm)ことが最も大きい利点です.ここでは簡単な180° 磁区の場合について述べましたが,90° 磁区など他の構造でも以上の説明は成り立ちます.


3. ペロブスカイトNd1/2Sr1/2MnO3

 まず,ペロブスカイト型構造を持つNd1/2Sr1/2MnO3について述べます.本物質は低温で磁気的な逐次相転移を示し,室温から冷却するとおよそ250 Kで常磁性絶縁体相から強磁性金属相へ,さらなる冷却により約150 Kで反強磁性の絶縁体相へ相転移します.20) ここで低温相の反強磁性絶縁体相は電荷軌道整列を伴っています.我々は150 ~ 250 Kで現れる強磁性金属相に着目しました.図3は強磁性状態にあるNd1/2Sr1/2MnO3の典型的なローレンツ電顕像(フレネル法)です.図1と同様に不足焦点,正焦点,過焦点の像を並べて示しましたが,不足焦点と過焦点の像に現れている白と黒の直線が収束像と発散像であり,磁壁に対応します.また,正焦点像に現れているほぼ水平に走る二本の直線は双晶境界によるものです.図3(a)と3(c)を見ると磁壁のコントラストが双晶境界により屈曲し,さらに双晶境界も磁壁として振る舞っていることがわかります.これは双晶境界による磁壁のピンニングを示しています.



図3(a)-(c)

図3 Nd1/2Sr1/2MnO3の225 Kでのフレネル像:(a) 不足焦点像,(b) 正焦点像,(c) 過焦点像.(a) と (c) 中の白い矢印で示された黒と白の直線状コントラストは磁壁をあらわす発散像と収束像である.(b) 中の黒い矢印は双晶境界をあらわす. (Fresnel images of Nd1/2Sr1/2MnO3 at 225 K: (a) underfocused, (b) in-focus, and (c) overfocused. Straight black and white lines indicated by white arrows in (a) and (c) represent, respectively, divergent and convergent images of domain walls. Arrows in (b) show the twin boundaries.)



 
 図4はab面でのローレンツ電顕像です.大局的には磁壁は[100]方向に沿っており,一部,点線で囲んだ双晶領域において[110]方向に磁壁が沿っていることが分かります.同時にフーコー法を行うことにより,この部分での磁化方向は図中の白矢印のようであることが分かりました.つまり,磁化方向も[100]および[110]に沿っており,ほとんどの部分は典型的な180° 磁区構造を示します.この結果は本物質が比較的強い結晶磁気異方性をもつことを表しており,磁化容易軸は[100]および[110]です.





図4

図4 180 Kでの [001] 晶帯軸入射フレネル像.白い矢印はそれぞれの磁区での磁化方向を表している. また、点線は双晶境界を表す.([001]-zone Fresnel image obtained at 180 K. White arrows indicate the direction of magnetization within each magnetic domain. Dashed liens indicate the twin boundaries.)



 
 図5に温度変化させたときの磁壁の動的挙動を示します.室温から冷却するとTc近傍の約245 Kで矢印で示した双晶領域の内部から磁壁が現れ始めます(図5(b)).更に冷却すると強磁性相の体積は徐々に増加します(図5(b)-(g)).この時,磁壁の挙動は“discontinuous domain-wall jumps (不連続な磁壁ジャンプ)”で特徴づけられます.これはあるピンニングサイトにある磁壁が熱的励起により,その位置を離れ,新しい安定点に飛び移ることを示しています.このような不連続な磁壁ジャンプは熱的な励起の他にも交流磁場下での磁化挙動において観測されています.このような強磁性相の発達過程と磁壁の運動の際も,上に述べたように,双晶境界は常に磁壁として振る舞っています.これは双晶境界が強いピンニングサイトになりうることを示唆しています.温度が150 K以下になると強磁性相の体積は減少し,磁壁のコントラストはしだいに消失します(図5(f), (h)).これは150 K以下で本系が反強磁性の電荷軌道整列相に相転移するためです.また,このとき結晶構造相転移も起こるため,強磁性相で観察された双晶は消失しました.






図5(a)-(i)

図5  フレネル法で観察されたNd1/2Sr1/2MnO3の磁区構造の温度変化:(a) 248 K,(b) 240 K,(c) 233 K,(d) 223 K,(e) 183 K,(f) 163 K,(g) 153 K,(h) 123 K,(i) 110 K.図(a) 中の点線は双晶境界を表し,図 (b) 中の矢印は磁区の発生した領域を示す.(Temperature variations of magnetic domain structure in Fresnel images of Nd1/2Sr1/2MnO3: (a) 248 K, (b) 240 K, (c) 233 K, (d) 223 K, (e) 183 K, (f) 163 K, (g) 153 K, (h) 123 K, and (i) 110 K. Dashed lines in (a) and arrow in (b) indicate the twin boundaries and region in which magnetic domains developed, respectively.)


 
 さて,本物質はおよそ150 K以下で電荷軌道整列を伴った反強磁性状態を示しますが,この強磁性、反強磁性転移は一次相転移です.そのため転移点近傍で両相の共存状態が現れます.図6は転移点以下である135 Kでの暗視野像とローレンツ電子顕微鏡像,そして顕微鏡像を説明する模式図です.暗視野像は電荷軌道整列に起因する超格子反射(図6(a)の挿入図の電子回折パターン中の矢印で示した反射)を用いて結像したものであり,図中の白く明るい部分が電荷軌道整列相を表しています.同じ温度で撮影したローレンツ電子顕微鏡像(図6(b))にはブロードではあるが矢印で示したように磁壁による収束像と発散像が現れています.収束像と発散像が観察しにくいのは,この温度域で強磁性相は構造相転移に起因する薄片試料の歪み(たわみ)を示し,そのためのコントラストが顕著に現れているためです.暗視野像が示す電荷軌道整列相とローレンツ電子顕微鏡像が示す強磁性相を見比べると互いに相補的であることが分かります.つまり,暗視野像で暗い部分は強磁性相です.このように転移点以下での二つの電子構造的に異なる相が空間的に相分離し共存しています.その様子を模式的に図6(c)に示しました.以上のようにローレンツ電子顕微鏡法と暗視野法の併用により磁気秩序が異なる領域の相分離状態の直接観察が可能になりました.





図6(a)-(c)

図6 強磁性金属相(FM)と反強磁性電荷整列絶縁体相(AF-COI)の共存.80 Kでの (a) 暗視野像と (b) フレネル像.(c) FMとAF-COIの共存を示す模式図.(a) の挿入図は暗視野像に対応する電子回折パターンで,矢印は暗視野像の結像に用いた超格子反射を示す. (Coexistence of ferromagnetic metallic (FM) phase and antiferromagnetic charge-ordered insulating (AF-COI) phase. (a) Dark field image at 80 K, obtained from a superlattice reflection. (b) Fresnel image at 80 K, indicating FM phase. (c) Schematic illustration showing the coexistence of FM and AF-COI phases. Inset of (a) is the corresponding electron diffraction pattern, and arrow head is superlattice reflection using for dark field imaging.)



4. ダブルペロブスカイトBa2FeMoO6

 
ダブルペロブスカイトAE2FeMoO6AEはアルカリ土類元素は強くスピン分極したハーフメタリックな電子構造と高い強磁性転移温度,トンネル磁気抵抗効果21) により注目を集めています.AE2FeMoO6はペロブスカイト型構造におけるBサイトにFe3+とMo5+の2種類のイオンを含みそれらが岩塩型に秩序化した構造を持ち,磁性的にはFe3+とMo5+は反強磁性的に結合して,結果としてフェリ磁性を生じます.また,Fe/Mo秩序の空間的分布により試料中に反位相分域が本質的に存在します.このようにFeとMoの秩序は構造はもとより磁性にも影響を与えます.今回我々は単結晶Ba2FeMoO6を対象物質として,結晶構造と磁区構造を調べ,それらの関係の一部を見い出しました.

 まず,ローレンツ電顕法で磁区観察した結果,磁区構造には大きく分けて2種類のものがあることが分かりました.一方は通常の180° 磁区であり,他方は細かく屈曲,分岐した磁区構造です.図7(a) と7(b) には典型的な180° 磁区の領域のフレネル像とフーコー像を,図7(d) と7(e) には細かく屈曲,分岐した磁区構造を表すフレネル像とフーコー像を示しました.さらに,それぞれが観察された領域について,電子回折,高分解能電顕法と暗視野法により結晶学的構造を調べました.それぞれの領域の暗視野像を図7(c) と7(f) に示しましたが,180° 磁区の観察された領域ではFeとMoの交互配列が長距離秩序を持ち,数マイクロメートルの範囲で反位相境界が観察されないことが分かりました.一方,細かく屈曲,分岐した磁区構造が観察された領域ではFe/Mo交互配列は長距離秩序を持つが反位相境界(図7(f) 中で矢印で示したような,比較的シャープでくねくねと曲がった線状コントラスト)が多く観察されました.同一領域での暗視野像とローレンツ電顕像を比較すると磁壁が反位相境界により屈曲する様子が確認され,さらには反位相境界と磁壁が完全に重なることがあることが分かりました.これは反位相境界による磁壁の捕捉を表しています.

 また,試料中に存在したFe/Mo交互配列の短範囲秩序領域について,ローレンツ電顕観察を行うと数十ナノメートルサイズの長粒状コントラストが得られました.このコントラストは磁区の微細化,磁化の空間的ゆらぎを表していると考えられます.

 このように結晶学的欠陥構造(反位相境界)と磁区構造の関係を調べることにより,結晶学的秩序(Fe/Mo交互配列)と磁気的秩序(フェリ磁性)の相互作用の存在を明らかにしました.




図7(a)-(f)

図7 Ba2FeMoO6の磁区構造と反位相境界:通常の180° 磁区構造が観察された領域での (a) フレネル像,(b) フーコー像,(c) 暗視野像.細かく分岐した磁区構造が観察された領域での (d) フレネル像,(e) フーコー像,(f) 暗視野像.図(b) と (e) の挿入図はダイレクトビームの分裂の様子で,矢印はフーコー像の結像に用いたダイレクトビームを示す.また,図 (f) 中の矢印は反位相境界を示す.(Magnetic domain structures and antiphase boundaries in the region (a-c) where ordinary 180° domain structure was observed and in the region (d-f) fine branching domain structure of Ba2FeMoO6: (a) Fresnel image, (b) Foucault image, and (c) dark-field image in the 180° domain region. (d) Fresnel image, (e) Foucault image, and (f) dark-field image in the branching domain region. The splitting of the direct beam is shown at the right bottoms of (b) and (e). Arrow heads indicate the direct beam using for Foucault imaging. The dark-field images of (c) and (f) formed by a 111 spot. Arrows in (f) indicate the antiphase boundaries.)




5. おわりに

 
本稿では強相関電子系酸化物における磁区構造を,特に結晶学的構造との関連を中心として紹介しましたが,これらの他にも結晶構造相転移に伴う磁区構造相転移や結晶学的次元性に由来した特殊な磁区構造などがローレンツ電子顕微鏡による磁区観察で見出されはじめています.このように結晶構造と磁区(磁気)構造の相互作用や磁区構造の動的挙動を研究する上でローレンツ電子顕微鏡法は非常に強力なツールであると考えられ,今後,幅広い分野において更なる知見をもたらしてくれると筆者らは期待しています.



文献

1) 強相関電子系の総合的な文献として,固体物理(特集号)36, No10 (1997).

2) C. Zener: Phys. Rev. 82, 403 (1951).

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