極低温ローレンツ電子顕微鏡によるNd0.5Sr0.5MnO3の磁気構造の観察

浅香透

Phys. Rev. Lett. 89, 207203 (2002)


強相関電子系化合物はペロブスカイト型マンガン酸化物の超巨大磁気抵抗効果(CMR)をはじめとして、電荷整列による金属絶縁体転移、光誘起絶縁体金属転移など、その強い電子相関のために多彩な物性を示します。そのため、様々な観点からそれら物性に関して活発に研究が行われています。私どもの研究室では強相関電子系化合物に対して、透過型電子顕微鏡を用いて結晶構造や磁気構造の観点からそれらの物性研究を行っています。特に最近ではローレンツ電子顕微鏡を用いて、微細な磁区構造や結晶構造と磁気的性質の関連などについても研究を行っています。その研究過程において私どもは様々な磁区構造を観察すると同時に、ペロブスカイト型マンガン酸化物の金属絶縁体転移温度近傍で反強磁性のマトリックス中に数十ナノメートルのナノクラスターが自発的に発生する現象を見いだしました。

図1 Nd1/2Sr1/2MnO3の典型的な強磁性磁区のローレンツ電子顕微鏡像(225K)。黒と白の線状コントラストが磁壁に対応します。
(b) の中央部で縦方向に走る二本の双晶境界が,磁壁として作用していることが(a), (c)のローレンツ像から分かります

図2 180Kで観察された磁区構造.磁壁は主に<010>方向に平行ですが,一部<110>に平行な磁壁も観察されます.

図3 (a) 248Kから(f) 110Kへの冷却過程で観察された磁区構造.

図4 (a) 79K から (d) 155Kまでの昇温過程で観察されたローレンツ像です.約140K近傍にて,特徴的な粒状コントラストが観察されます.
(e), (f)には粒状コントラストの拡大像を示しますが,これが磁気構造を反映したものかどうかについては,現在慎重に検討中です.

戻る