VI. Diffraction解析に使う小さなツール群

Ver. 1.3: 2024.3.21
木本浩司
Koji KIMOTO

1. キャリブレーション

基本的なキャリブレーション方法

正しい解析を行うためには、回折図形のキャリブレーション(カメラ長)が正しくなくてはいけません。STEM像やTEM像と異なり回折図形には中心があるのでscale(1画素当たりの単位)だけでなくorigin(中心座標)も正しく行う必要があります。

スクリプトを使ったキャリブレーション方法

2. 回転平均の計算

3. [1/nm]から[mrad]への変換

通常、画像取得装置では、面間隔[nm]への変換が簡単になるように、回折図形は[1/nm]でキャリブレーションされています。一方、収束角などの実験条件は多くの場合には角度[mrad]で指定されています。しばしば実験条件を[mrad]で確認したいためこのscriptを作りました。
加速電圧(V)によって波長(λ)が変わるため、散乱角と面間隔の逆数(1/d)との関係も変わります(2θλ(V)/d)。そのため変換には加速電圧情報が必要です。通常の実験データでは加速電圧はimage tag("Microscope Info:Voltage")に保存されています。 次のscriptでは、[1/nm]を[mrad]に変換し、ファイル名に_mradをつけます(生データを間違って上書きしないようにするため)。加速電圧のtag情報が無い場合には、GetNumber()で入力を求めます。

4. 4D-STEMのデータの座標の順番

4D-STEMはプローブを走査しながらdiffraction patternを取得するもので、位置x,yと回折図形の座標u,vの4つの座標のデータが取得されるので4D-STEMと呼ばれています。先日とある会議で「4D-STEMって誰が言い出したの?」とDr. Colin Ophusに尋ねたところ、「私です」と言っていましたので、命名はDr. Ophusだと思います。木本は2011年のUltramicroscopyの論文で、spatially-resolved diffractometryと名前を付けたのですが普及しませんでした。
 4D-STEM dataは古いバージョンと新しいバージョンで座標の順番が変わっています。
 当初は特定バージョンのバグかと思ったのですが、その後、石塚和夫先生(HREM Research Inc.)と話をしたところ、GMS3のある時点でx,y,u,vu,v,x,yに変わったと教えていただきました。その話を、早稲田大学の平田先生にしたところ「そうなんだよ、最初は分からなかったよ」と平田先生もおっしゃっていました。ユーザー同士の情報交換は重要だと思います。
 xyとuv座標の入れ替えは、以前はsliceN(4,4,...)とMeta Data:Data Order Swappedから自作scriptで行っていましたが、GMS3.4以降ではVolume > Reorder for fast spatial/diffraction dimension access というメニューがあり、簡単に変換できます。以前はscriptでしかできなかったことが、いつの間にかメニューから標準的な機能としてできるようになっている事はしばしばあります。例えば10年前、Volume > Rotate は無かったので自作scriptで処理していました。当時はFourier transform (FT)も2Dしかできなかったので、2D-FTと1D-FT(complex)とのloopを回していたのですが、まもなくHREM Research Inc.が提供するIPU(フリーライブラリー)で高速にできるようになり、その後のDigitalMicrographでは標準機能となりました。
 DM上のpythonでデータ解析をする際には、imageをNumPy arrayにしています。NumPyは.reshape()や.transpose()が便利で使いやすい(計算も速い)のですが、NumPyの座標は3次元の場合z, y, xの順番なのでDMデータの変換時に混乱します。Gatanのhelp fileにその記述があるのに気が付いたのは、ひとしきり試行錯誤した後でした。