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物質・材料研究機構 材料研究所 |
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(筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物質・材料工学専攻 教授) |
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桜井健次 |
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| はじめに | ||
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X線は通常の光と同様電磁波である.その性質のなかで最もよく知られ利用されているのは、その波長の短さに対応した物質に対する透過能の高さであろう.医療の最前線で用いられる]線コンピュータ・トモグラフイ(CT)は、]線透過写真の原理を応用して、人体の内部の特定の断面を画像として描きだすものである.]線の透過能は、侵入深さ、すなわち強度が1/eにまで減衰する深さによって表現されることが多い.これは]線の波長と物質の種類に依存して変化するが.5〜20keVの]線に対してはおよそμm〜cm程度であり.固体のキャラクタリゼーションにちょうどよい深さになる.他方、本来は高い透過能を持つはずの]線の侵入深さをnm〜100nmというきわめて浅い領域に制御する技術も知られている.]線をある決まった角度よりも小さな角度で入射すると.光学的な全反射が起きる.この現象を利用すると、固体に用いられている]線の解析手法を表面や薄膜に応用することが可能になる1)〜5). |
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X線反射率の理論式6) |
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物質の]線に対する屈折率は
n = 1 - δ - iβのように複素数で表現され、実数部δ と虚数部βは.密度をρとして、それぞれ次式のように.物質を構成する原子種ごとに決まる定数の原子数平均で与えられる.
物質が基板上の薄膜のように深さ方向に屈折率の不連続な断絶、すなわち界面を持つ場合は、界面での多重反射による干渉効果を考慮する必要がある.反射率は、臨界角を境にして単調減少するのではなく、干渉を反映して振動する.振動周期は薄膜の厚さと関連があり、膜厚が大きくなると周期が減少する.後述のようにフーリエ解析を利用すれば定量的に膜厚を求めることが可能である.また屈折波は単純な指数関数ではない複雑な強度分布を持つ.このような状況では、図2のような一般的な多層膜モデルにおいて,各界面での電場ベクトルの境界条件を考慮すればよい.すなわち,第 |
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| ]線反射率の測定 | ||
]線の全反射は,平坦かつ平滑でありさえすれば,どんな構造のどんな物質の表面でも生じるものであり,]線回折のように結晶構造等には依存しない.しかし,既に説明したように,]線反射率は,視射角と等しい出射角の位置に検出器を置いて角度走査をするような測定によって得られるのであるから,どことなく]線回折法の実験と似ていると感じられるのではないだろうか.実際,歴史的にも,標準的な]繰回折ゴニオメータに変更を加えたものが]線反射率計として使用されてきた経緯がある.X線回折の測定との大きな違いの第1は,扱う角度領域である.X線回折では20〜100゜の広い範囲の回折角を扱うが,]線反射率の測定で対応する角度は0.2〜6゜と,浅くかつ範囲も狭い.見た目にも]線源,試料,検出器がほとんど一直線上に並ぶような配置である.角度制御を非常に小さな角度を刻み単位として精密に行う必要があるし,また光軸調整も厳密でなくてはならず,試料回転中心,試料表面,]線光束中心の3者をミクロンオーダーで一致させるための調整機構を必要とする.違いの第2は,強度測定のダイナミックレンジである.標準的な]線回折実験における強度測定はリニアスケールであるが,]線反射率では通常5〜8桁におよぶログスケールになる.低角度の全反射域では入射]線の強度とほとんど同じ強度のきわめて強い反射が観測されるが,高角度になると何桁も弱くなる.きわめて弱い]線と非常に強い]線を同じ装置で測定する必要があること,弱い]線もまた精度よく測定しなくてはいけないこと等が]線反射率の実験の特徴である.図3は,そのような要素を考慮し1995年頃に当時の科学技術庁金属材料技術研究所(現物質・材料研究機構)で開発された]線反射率計7)である.この装置では,高精度を得るのが難しい2軸ゴニオメータを使用していない.微小角度域でしか使用されないため,検出器の軸の回転は並進で置き換え,試料回転には1軸の精密ゴニオメータを採用している.その回転中心調整を行うために,並進ステージを2台,並進一回転一並進の3段重ね構成で使用している.また広ダイナミックレンジの測定に適したYAP:Ceシンチレーション検出器8)を備えている.さらに,この装置では,通常の]線反射率測定だけでなく,反射スポット周囲に現れる散漫散乱の精密な角度プロファイルの測定や,試料からの蛍光]線の測定もできるように考慮されている.![]() |
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| 放射光利用の得失 | ||
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シンクロトロン放射光は,(1)強度が桁違いに強い,(2)任意の]線波長を選べる,(3)平行性が高く発散が小さいため,光学系によるロスが少ない,(4)偏光・パルス性を利用する計測が可能等,たいへん魅力的な特徴を備えており,]線反射率の実験にも非常に適している.実際,諸外国の多くの放射光施設には,]線反射率の専用ビームラインが整備されている.わが国では,残念ながら,まだそのような段階には至っていないが,筆者らは,図3の装置を実際に放射光施設に搬入して実験を行っている.その経験をもとに,比較を行った結果を表2に示す.しばしば誤解される点であるが,実験室系でも実施できるとされている実験であっても,放射光利用の必要性・有用性・意義をいささかも低めるものではない.]線反射率に限らないことであるが,新しい光源を使うときは,同じ名称の技術であっても,実質的に別の実験であるとさえ言わなければならないほどの違いがある.その差を定量的にふまえて議論することが肝要である.同じことは,偏向電磁石光源で現に行われている研究が,アンジュレータ光源等の高輝度放射光源によりアップグレードされる場合にもあてはまる. 筆者らは,実験室では,強度の得やすさを優先してCuKα1(8.04keV)を使用しているが,放射光施設では,主に16.OkeVの]線を用いている.ゴニオメータの分解能に余裕がある限り,高めの]線エネルギーのほうが狭い範囲の角度走査で広い逆空間領域のプロファイルが得られ効率的であるし,大気パスによる散乱や減衰も少なく,またシンチレーション検出器等を用いる時は,その信号対バックグラウンド比の点でも有利である.このように任意の]線波長を選択できる点は,放射光利用の最大の利点の1つである.]線波長や分解能(発散)その他のいろいろな条件の違いを無視して,強度だけを比較すると,高エネルギー加速器研究機構丁放射光研究施設のBL14Aでは,実験室系の約50〜100倍のフォトン数があり,ビームサイズが約1/lOであることを考慮するとフォトン密度としては約500倍以上の開きがある.得られるデータが,実験室系の1.5〜2桁下のレンジまで拡張される利点に加え,ビームサイズを0. 05mm×lmm程度に抑えてもなお測定に十分な強度が得られる点は意義が大きい.反射スポット周囲に現れる散漫散乱の解析において長手方向の積分の際に行われる近似を避けることができ,また試料の軸立て調整の影響や検出器直前のソーラースリットの効果等を小さくすることができる点も大変好都合である.Spring-8のアンジュレータ光を用いると,さらに高強度であり,]線検出はイオンチェンバー(もしくは,シリコンフォトダイオード)による電流測定により行えるため,特に,散漫散乱の測定において,測定時間の大幅な短縮が可能になる.また,散乱]線以外の情報,例えば蛍光]線等を検出する場合は,高輝度光源の利点は顕著である。 他方,表2に示されている通常の反射率の測定時間の比較は,なかなか興味深いのではないだろうか.先に述べた通り,全く同じ品質のデータを取るわけではないから,時間だけを比較するのはやや乱暴ではあるが,角度走査に要する時間が主な制約要素になる場合,放射光を利用しても時間短縮の効果が薄いことは覚えておくとよい.かえって,アッテネータの有無によるデータの連続を保証するために測定点が増えたり,超高分解能のゴニオメータを使用することにより移動速度が低下することによるロスタイムが主な制約要因であったりして,実験室系よりも時間がかかりさえする.他に実験室のほうが優位である要素として,入射強度の安定性が挙げられる.X線反射率は,強度比をデータとして扱うものであり,入射強度が時間的にむやみに変動するのでは困る.その精密なモニタリングや規格化の方法は,特に放射光を利用する場合には悩ましい問題である.
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]線反射率のデータ解析 |
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]線反射率のデータ解析の歴史は,非常に古く,]線の全反射を発見したCompton9)や初めて干渉縞の解釈を試みたKeissig1O)の時代にまでさかのぼることができる.当時より,写真法によって記録した臨界角は表面や薄膜の密度の決定に使うことが十分にできたと思われるが,有用性が注目を集めるのは,薄膜内部での]線電場強度分布を見通し良く定式化した1950年代のParrattの研究6)の後である.前節で述べた反射率の式は,この頃に導かれた.これを受けて1960年代には,干渉の振動構造の周期を直接読みとり膜厚を決定する試みもなされている11)12).すなわち,第
で与えられる(薄膜と基板の屈折率の大小関係で前者と後者にわかれる).この方法自体は,事実上薄膜1層の場合以外は適用困難であったが,その後コンピュータが普及すると,先のParrattの理論に基づく各層の厚みや各界面の粗さをパラメータとするモデルに対する非線形最小2乗フイツティングが広く用いられるようになった13)14).この背景には,1980年前後から,Nevot,Croceによる]線反射率による表面ラフネスの研究15)が進歩し,表面のナノスケールの形状を非破壊的に精密評価することへの期待感が高まったことが挙げられる. ![]() 図4 ]線反射率のフーリエ解析の流れ図.取得した]線反射率データのフーリエ解析法による解析の手順.それぞれの層の厚さはその層を構成する物質の全反射臨界角を用いて処理した結果から決められる.
他方,1990年代には,通常の]線反射率と同じかそれ以上に散漫散乱への関心が高まった1)〜5).ラフネスの精密決定や,ナノ粒子やナノドットのような面内に不均一な構造を持つ系の解析等,深さ方向の散乱ベクトルにのみ注目する従来の]線反射率法では十分に扱えない問題を解決しようということでもあった.これには1988年のSinhaによるDWBA理論の導入および等方的なランダムな粗さを持つ表面についての散乱強度の定式化19)が非常に大きな影響を与えた.また,]線反射率法におけるラフネスは,理想表面に対する]線反射率への補正項として扱われてきているが,その後,ガウス分布で単純に扱えないケースが多くあることも明らかになってきた.バルクよりも大きな密度を持つ層と不自然に大きなラフネスが求まるというミステリーは,機械的なフイツティングにより,しばしば生じる.この間題は,密度傾斜を考慮すること20)によりある程度解決することができる.非対称なラフネスをCumulant展開で取り扱う研究21)もある.さらにこれまで必ずしも容易ではなかった特定界面のラフネスの反射率への寄与を抽出するのに,ウェーブレット変換(時間周波数解析)を用いる方法が提案されている22).以上は,言わばモデルに対するフイツティングに過度に依存することへの警戒感からの軌道修正であり,今後は,さらに踏み込んで層厚,拡散,ラフネスのようなパラメータを用いずに電子密度プロファイルを求める方法等の開発が進みそうである. |
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| 応用例 | ||
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]線反射率の応用範囲はきわめて広く,ほとんどどんな薄膜でも,あるいは基板でも測定対象になりうる.ドイツ,ミュンヘンのPeisl教授のグループは,表面のマルテンサイト変態を]線反射率法により解明した23).図5は,電解研磨で得られたNi62.5A137.5(001)表面の]線反射率を,試料を冷却しながら測定した結果である.同一試料のバルクの変態温度である85Kより高い90Kで,0.14゜近傍に屈曲点が認められた.この温度で表面緩和が生じているため,具体的には平滑さが失われ0.1〜数ミクロンオーダーの変形が起きているためと考えられる.興味深いことに,加熱過程では同じ温度であっても図5とは異なる結果が得られる.しかし,室温まで上げた後に冷却を行うと図5の結果は繰り返し再現される.この結果をまとめたものが図6(a)である.他方,図6(b)に示すとおり,回折ピークから判定できるバルクのマルテンサイト変態温度は85Kであり,また上記の表面に見られるようなヒステリシスは認められない.すなわち,バルクのマルテンサイト変態は二次相転移だが,表面のマルテンサイト変態は一次相転移のような挙動を示し,かつ変態温度も高い.こうした相転移の表面効果について,同グループでは,Ni2MnGaやNi50.8Ti49.2についても詳細な研究を行っている24).
図7 モリブデン単結晶ミラーの]線反射率.(a)反射率と散漫散乱の角度プロファイル.挿入図は表面近傍の密度分布.(b)表面構造のモデル.表面の模式囲および]−]′線で切った断面の模式図.Hurstパラメータは,フラクタル次元をDとして,3−Dで定義される.
ところで,理想的な鏡面とされる基板の多くは,シリコンであり,石英ガラスである.金属製のミラーは,あまり平滑でないとされてきた.2次再結晶法により作製されるモリブデン単結晶ミラー25)26)は,例外中の例外と思われる平滑さを持っており,実際にどのような構造を持つ表面であるか,関心が持たれていた.図7(a)は,]線反射率および散漫散乱の測定結果である27).全反射域での高い反射率は表面ラフネスが小さく平滑であることを裏付けているが,同時に反射率の減衰に穏やかな波打ちが認められ,これは挿入図に示したような密度分布に対応するものと考えられる.散漫散乱の解析結果とあわせ,モリブデン単結晶ミラーの表面は次のようになっていることが明らかになった.すなわち,面内方向にはミクロンオーダーの大きなドメイン構造が存在し,その内部では非常に平滑である反面,その境界に存在する小さなドメインにより荒れた表面構造になっており,さらに深さ方向には,研磨過程でのダメージにより生じると思われる低密度層がある.これを図解したものが図7(b)の表面モデルである.X線反射率法では,表面の下にある「埋もれた」界面の情報を非破壊的に得られる点が他の方法よりも優れている.
図8は,Co/Cu多層膜(Si(111)基板上に[Cu(22.8nm)/Co(2.1nm)]20をバッファ層(Co3.8nm),キャップ層(Cu2.5nm)とともに蒸著したもの)の]線反射率データである28).改造したマグネトロンスパッタ装置を用い,アルゴンイオンの量と平均エネルギーを独立に制御できるようにし,ここでは,イオン衝撃のエネルギーの違いによる効果を見ようとしている.この図からは,エネルギーが大きくなるとブラッグピーク位置がシフトし,すなわち周期層厚が薄くなっていることがわかるが,これはアルゴンイオンのエネルギーに対応して,成長中の膜からの再スパッタ率が変化することに対応している.また,解析の結果,界面ラフネスに分布があり,表面に近づくほど平滑になっていること,それはイオン衝撃のエネルギーが大きいほど顕著であることが明らかにされた。
図9GaAs量子ドットの]線反射率.]線反射率による2種類のGaAs量子ドット試料A,Bの反射率(左)及びフーリエ解析法による解析結果(右).左下の表は,鏡面反射率と散漫散乱から推測される試料Aの量子ドットの構造を示す.一方,試料Bの測定の結果得られた]線反射率データからは量子ドット層の存在を確認できなかった. |
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| おわりに | ||
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すでに見てきたように,]線反射率法は,表面や薄膜を研究するための非常に便利なツールである.他の方法との比較では,表面に露出していない「埋もれた」ナノ構造を非破壊的に解析できることが最大の利点であろう.標準的な]線反射率の測定は,通常の実験室系でも実施できるが,ラフネスや薄膜界面での拡散等の詳細な検討を行うためには,今後,]線反射率法の拡張,すなわち散漫散乱(あるいは反射小角散乱とも呼ばれる)を含めた統合的な解析が必要であり,そのためには,放射光利用が望ましい.高エネルギー加速器研究機構・放射光研究施設では,ビームライン機器を利用する研究者の交流や新規参入研究者への情報提供を行うための連絡組織(PF懇談会]線反射率ユーザーグループ30))もできていて,ほぼ毎年ワークショップを開催しているほか,ナノテクノロジーの諸問題に関連する研究のための実験ステーション計画等の検討も行っている.関心のある方には,一度連絡されることを薦める.本稿では触れることができなかったが,]線反射率法のこれからのトレンドとしてもう1つ重要なのはリアルタイム計測技術による化学反応等の解析である.このような実験には,試料や光学系をまったく動かさずに]線反射率のプロファイルを測定する必要がある31).このような研究にも放射光の利用が非常に重要な役割を果たすと考えられる. |
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| 参考文献 | ||
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