極細多芯構造

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1.はじめに

 超伝導状態では電気抵抗がゼロである。超伝導線で巻いたコイル(超伝導マグネット)に大きな電流を流すと、電力損失を伴わずに強磁場を発生できる。しかし、全ての超伝導線が強磁場発生に向いているわけではない。“極細多芯構造”と呼ばれる断面構造(図1)を有しているもののみである。銅などの常伝導金属マトリックス中に極めて細い超伝導フィラメントが多数整然と積み重ねられた構造で、その蜂の巣を想わす特徴的な断面構造は長い超伝導線のどこを切っても同じように現れる。いかにも先端技術らしく芸術的な風格さえ感ぜられる断面構造である。しかし、高度な複合加工技術を駆使して、なぜこのような構造を作り込む必要があるのか。
RHQT法ジェリーロールNb3Al線材の断面 ブロンズ法Nb3Sn線材の断面

極細多芯構造の役割

1.電磁気的不安定性(フラックスジャンプ)の抑制効果(磁気的安定化)
   → 超伝導体の径<40μm

2.超伝導が破れた部分を廻りの銅マトリックスに電流がバイパスさせ、その間に冷却により温度を下げて再び超伝導状態に復帰するさせる効果(冷却安定化)

   

3.細い超伝導体を多数本束ねる
   → 電流容量を大きくする

磁気的不安定性のメカニズム
2.極細多芯構造の役割

 強磁場中では量子化された磁束線が超伝導体に侵入する。電流を流すと磁束線はローレンツ力を受けて動こうとする。もし磁束線が動くと誘導起電力が発生し、電気抵抗ゼロで電流が流せない。そこで、転位網、結晶粒界、異相界面などの不均質点を超伝導体内部に導入し、この磁束線の動きをピン止めさせている。しかし、ピン止め力は温度が上がると減少する。そのため、何かの原因で一部の磁束線がピンからはずれて動くとジュール発熱で導体の温度が上昇し、ピン止め力は低下する。その結果、さらに磁束線が移動する。この悪循環により導体全体が温度上昇して常伝導状態に転移することがある。この磁気的不安定性は、超伝導線の径をあるサイズより小さくすると抑制できる。このサイズは数十μmである。実用上の導体としては数十μmの線径では電流容量が小さすぎる。電流容量を大きくするためには、この細い超伝導フィラメントを多数束ねればよい。フィラメント同士が接触すると有効フィラメント径が大きくなるので、多数の超伝導フィラメントが常伝導金属中に分散して埋め込まれた構造の極細多芯線が開発された。

 しかし、このような極細多芯構造に作り込んでも、導体内の一部で超伝導が破れて発熱することがある。これに備えて熱や電気伝導度のよい銅をマトリックスとして用いる。超伝導体中に常伝導領域が発生した場合、一時的に電流が銅マトリックスにバイパスする。熱が液体ヘリウムで除去されて再びその部分が超伝導になると、電流は銅から超伝導体に戻る。

 したがって、銅をマトリックスとする極細多芯構造は、超伝導が磁気的不安定性によって破れないように、また部分的に破れても元の状態に復帰できるように、二重の意味で超伝導線の安定性に寄与している。この構造を有して、さらに磁束線のピン止め中心である各種不均質点を高密度で導入できることが、実用的な超伝導線材の製造方法として重要である。10T以上の強磁場発生では上部臨界磁場Hc2の高いNb3SnやV3GaなどのA15型金属間化合物が使用されている。これら化合物での代表的な磁束線のピン止め中心は結晶粒界である。そのような製法にブロンズ法がある。