研究概要

安田の有機デバイス研究・開発の方針

 有機半導体は多種多様存在し、現在においても新規材料が膨大に合成されている。それら有機半導体は様々な個性を有し、その個性が活かせるデバイス(有機トランジスタ、有機EL、有機薄膜太陽電池の中から)を選び、適切に作製と評価を行うことを目標としている。


アモルファス薄膜を用いた有機薄膜太陽電池の開発(2009年から)

 現在、最も標準的な有機薄膜太陽電池は結晶性のπ共役高分子と可溶性フラーレンの混合膜で作製されている。これらの平均膜厚は200nm程度であるが、表面には高分子の結晶性に由来する数十nmの凹凸が存在する。結晶性の高分子を使う限り、大面積化において結晶の成長度合による再現性の問題、凹凸によるショート電流が問題になってくると予想している。

 そこで本研究では均質なアモルファス薄膜(実用化している有機ELに用いられる薄膜は全てアモルファスである)を形成する太陽電池用π共役低分子や高分子を開発している。

 現在、P3HTとPCBMの混合薄膜を用いて以下のような太陽電池特性が得られているが、まずはこの特性を超える材料やデバイス構造の開発を目指している。

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π共役高分子鎖内の高速電荷輸送を利用した有機トランジスタの開発
(2008年から)

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 現在において、有機エレクトロニクスに用いられているπ共役高分子は、有機溶剤に可溶でインクジェット法のような低コスト法が適用可能という利点が主に追求され、真空蒸着法で薄膜を作成する低分子材料に比べデバイス特性が劣るという風潮である。

 しかし我々は単にπ共役高分子の性質を充分に活かしていないだけで、高分子には低分子では得ることの出来ない利点がある。1つはπ共役主鎖に沿った高速キャリア輸送の可能性であり、事実π共役ポリジアセチレン単結晶において、高分子主鎖に沿ったキャリア移動度は100 cm2/Vsを超えるという報告がある。もう1つは機械的な強度、加工性の利点である。歴史的にみても、π共役高分子を用い、導電性の向上、3次の非線形光学材料への応用としてπ共役長を拡張する努力が行われていた。
 形成加工性を有するπ共役高分子はキャスト法により緻密で自己支持可能な薄膜として得られるだけでなく、延伸、紡糸などの加工技術を用いることにより、高分子配向薄膜、ファイバーなど様々な形態や高次構造を持った材料が作製可能であり、実際、導電性高分子を延伸し、延伸方向に導電率を大きく向上させた例が古くより数多くある。

 以上の背景を元に、本研究では高分子主鎖方向の高速キャリアを利用した有機デバイスの作製を目指し、延伸法により一方向にπ共役高分子が配向した薄膜の作製と有機電界効果トランジスタへの応用に関する研究を行っている。

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▲5倍延伸したrr-P3HT薄膜の偏光吸収スペクトルと表面AFM像

企業との新規有機半導体開発(2005-2008年)

π共役高分子鎖内の高速電荷輸送を利用した有機トランジスタの開発
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 有機半導体は本来両極の電荷を流すこと(ambipolar)を明示し、特に複雑な分子設計を行わなくても若干の化学修飾で高性能有機半導体が開発可能であるという観点より、民間化学メーカー(3社)と共同で新規有機半導体を100種類以上開発してきた。
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 開発した正孔輸送性材料は一年間大気中に保存しても移動度が低下せず安定であり、有機材料のHOMO準位と大気中での安定性の相関を示した。
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 これらの成果での特許出願を終えた後、企業の了解を得て、論文・学会発表等で知見を公開している。

Ambipolar有機薄膜トランジスタに関する研究(2003-2007年)

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 2003年11月、九大筒井研究室に助手として採用して頂いて以降、有機半導体薄膜が絶縁体で電子、正孔を効率よく電極より注入し、電子、正孔輸送どちらでも駆動するambipolar有機トランジスタの作製を目指した。

 その結果、p型の有機半導体として考えられていたペンタセン、電子注入に適したCa電極を用い、意図しない大気中からの酸素、水ドープを避けるためデバイス作製と測定を全て窒素グローブボックス内(H2O<1ppm、 O2<1ppm)で行うことで、ambipolar有機FETの作製に成功した。その正孔移動度は4.5×10‐4 cm2/Vs、電子移動度は2.7×10‐5 cm2/Vsであった。同様の実験方法で材料探索を行った結果、p型と考えられていた銅フタロシアニンで、正孔移動度2.5×10‐4 cm2/Vs、電子移動度は1.0×10‐3 cm2/Vsの値が得られている。

 このように、典型的なp型有機半導体と考えられていた材料においても高い電子移動度を有していたことが分かった。



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