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コロイド結晶の構造

 コロイド結晶の通常の構成単位は、粒径の揃った一種類の球状粒子です。進んだ研究では、形状に異方性がある粒子や、多種類の粒子(粒径や材質が異なる)の混合系が扱われる場合もありますが、ここでは、最も基本的な、同種の球状粒子からなるコロイド結晶の結晶構造について考えます。

密充填コロイド結晶に現れる構造:稠密充填構造

 パチンコ玉のような剛体の球を、最もコンパクトになるように詰め込もうとしたときに現れる構造は必然的に限られ、以下に説明する稠密充填構造(最密充填構造、最密構造などとも呼ばれます。ここでは、筆者の好みから「稠密」を使います)と呼ばれるものになります。コロイド結晶で現れる結晶構造は、基本的に、この稠密充填構造か、それに近い構造です。

図1 六方稠密充填層。
二層目の粒子層を重ねるときに、
赤と緑で区別した二種類の座りの
良い位置がある。

平面上に球を一層だけ敷き詰めて隙間なく充填された(つまり、稠密充填の)周期構造をつくると、図1のような二次元構造ができます。次に、この層の上に、これと同じ構造の粒子層を、座りの良い位置(最初の層の粒子がつくる窪みに二層目の粒子がはまり込む位置)に乗せ、これを繰り返していくと、三次元の稠密充填構造ができあがります。この座りの良い位置には、図1で赤と緑で区別した二種類の窪みがあり、どちらかの窪みに二層目の粒子を置くことになります。三層目、四層目と積層をしていくときに、上積みする層の粒子が、この二種類の窪みのどちらにはまるかで、結果としてできる三次元の積層構造が異なってきます。積層周期が2層の構造は六方稠密充填構造(図2。Hexagonal close-packed structure. 略してhcp構造)、積層周期が3層の構造は立方稠密充填構造(図3。Cubic close-packed structure. 略してccp構造。結晶格子は面心立方格子である)と呼ばれます。「六方」や「立方」という言葉は、それぞれの構造が、結晶学の「六方晶系」や「立方晶系」に分類されることからきています(詳しいことは、他の章で解説する予定です)。積層周期は、理屈上は任意の値が可能ですが、あまり周期の長いものは現実には現れ難いだろうことは、想像に難くないでしょう。また、積層がランダムになることも考えられます。この場合は、もはや「結晶」とは呼べないかもしれません。以上の中で、現実に見られる最もポピュラーな構造は立方稠密充填構造です。

図2 六方稠密充填構造に積層した粒子層

図3 立方稠密充填構造に積層した粒子層

疎充填コロイド結晶の構造

 以上の稠密充填構造は、密充填のコロイド結晶で現れうる構造として、容易に理解されると思われます。一方、疎充填のコロイド結晶では、粒子は接触しません。しかし、粒子が接触していないとはいえ、粒子の周りに静電反発力の場を伴っているのを有効の粒子直径が大きくなったと見なせば、そのような有効直径をもった仮想的粒子同士が接触していると考えることができます。現実には、立方稠密充填構造の相似構造(粒子の中心位置の相対関係を保ちながら全体を等方的に膨張させた構造)が現れます。結晶格子は面心立方格子なので面心立方構造(Face-centered cubic structure. 略してfcc構造)と呼びます。これが、疎充填のコロイド結晶でも最もポピュラーな構造です。

体心立方格子の構造

 疎充填コロイド結晶では、稠密充填構造(と相似な構造)ではない構造のコロイド結晶が存在します。その構造は体心立方構造(Body-centered cubic structure. 略してbcc構造)であり、通常、粒子濃度が低い場合に現れます。この構造は、稠密充填構造が少し変形した構造であると考えることができます。以下に簡単に説明しましょう。図4に示すのは、図1の稠密充填層を横方向に15%引き延ばし、そのとき、斜め方向の隣同士の粒子は接触したままに保つような変形をさせた構造です。図4の構造では、図1の構造の赤と緑で区別した二種類の窪みが合体して、一種類の窪みになっています。この一層目の窪みの中心に、二層目の粒子がはまり込むようにして、積層を繰り返していくと、積層周期が2層である構造ができます(図5)。このようにしてできる三次元周期構造が、結晶学で体心立方構造と呼ぶ構造に一致するものになります。疎充填コロイド結晶で現れる体心立方構造は、これを粒子が非接触になるように均等に膨張させて得られる構造です。

図4 六方稠密充填層を少し横に延ばし、
縦に押しつぶす変形をした粒子層。 図1に
比べると隙間がある。

図5 六方稠密充填層を変形した
構造の積層で形成される
体心立方構造の粒子層

結晶構造の欠陥と器壁への配向

 上記で説明した結晶構造はいずれも二次元的な粒子層を積層して得られる構造です。実際の結晶では、この積層が秩序正しく行かない、つまり、積層欠陥を含むのが普通です。また、いずれの構造の結晶においても、平坦な器壁に対して、上記の粒子層に対応する結晶面(最密格子面になっている)が平行になるように配向する傾向があります。


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