窒化ガリウムトランジスタに原子レベルで平坦な結晶層を新発見

~半導体/絶縁膜界面に準安定な酸化ガリウム層が存在 次世代パワーデバイス実現へ道~

2017.10.23


国立研究開発法人物質・材料研究機構

NIMSを中心とする研究チームは、次世代パワーデバイスとして期待される窒化ガリウム (GaN) を用いたトランジスタにおいて、GaN結晶と絶縁膜との界面に、これまでまったく知られていなかった、原子レベルで平坦な準安定酸化ガリウム結晶の層が存在することを発見しました。さらに、この酸化ガリウムと同様の層が、絶縁膜をつける前にGaN結晶の表面が自然に酸化されることでも形成される可能性を明らかにしました。

概要

  1. NIMSを中心とする研究チームは、次世代パワーデバイスとして期待される窒化ガリウム (GaN) を用いたトランジスタにおいて、GaN結晶と絶縁膜との界面に、これまでまったく知られていなかった、原子レベルで平坦な準安定酸化ガリウム結晶の層が存在することを発見しました。さらに、この酸化ガリウムと同様の層が、絶縁膜をつける前にGaN結晶の表面が自然に酸化されることでも形成される可能性を明らかにしました。GaN結晶と絶縁膜の界面に欠陥がないことは、トランジスタの性能向上につながるため、今回の発見は高性能なGaNトランジスタ開発に向けた指針となることが期待されます。
  2. GaNをベースとした金属 - 酸化物 - 半導体電界効果トランジスタ (MOSFET) は、次世代パワーデバイスとして期待されています。しかし、シリコン製のトランジスタに比べて、電子やホールの移動度が低いことが実用化への問題となっています。移動度は、GaN結晶とゲート絶縁膜の界面構造に大きく影響を受けるため、界面を制御する方法として、これまでGaN表面の洗浄方法等のプロセス検討、ゲート絶縁膜に使われる材料の検討等が行われてきました。しかし、いずれのプロセス条件およびゲート絶縁膜を用いても、電気的な計測では界面に特異な差は見つからず、その原因も分かっていませんでした。
  3. そこで本研究チームは、二酸化ケイ素 (SiO2) を絶縁膜に使ったトランジスタを作製し、GaN結晶との界面を電子顕微鏡で直接観察したところ、1.5nm程度という非常に薄い、GaN結晶とエピタキシャル関係を持つ結晶状の酸化ガリウム (Ga2O3) の層がある事を発見しました。また、このGa2O3層は、一般に良く知られている安定なβ相とは異なり、準安定相であるε相と呼ばれる構造とγ相と呼ばれる構造が混じった構造であることを明らかにしました。観察された準安定Ga2O3結晶は、原子レベルで平坦なため、界面での伝導を阻害する界面準位密度を低減できると考えられます。さらに、同様なエピタキシャル成長した準安定相からなるGa2O3は、ゲート絶縁膜形成前のGaN基板表面にも、1nm程度の自然酸化膜として存在している事を明らかにしました。絶縁膜形成前のGa2O3層が、GaN結晶/絶縁膜界面で観察された構造と同じかは、今後詳細な解析が必要ですが、結晶状の準安定酸化ガリウム層が幅広い条件で形成されることを示しています。
  4. パワーデバイスは、自動車や電車のモーターなどの大電流をスイッチングするために利用される素子であり、より低損失でより大きな電流を制御することが求められますが、本研究成果によって、GaNをベースとしたパワーデバイスにおいて、半導体/絶縁体界面を制御することにより、パワーデバイスがオン状態の際の抵抗を低減し、より大きな電流を流すための手がかりが得られました。今後、今回発見された準安定Ga2O3層の生成条件や、デバイスの電気的特性との関係を明らかにするとともに、界面層を最適化していく事で、シリコンや炭化ケイ素をベースとした従来のMOSFETに代わる次世代パワーデバイスの実用化を目指します。
  5. 本研究は文部科学省「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発—評価基盤領域—」の委託を受けて行われました。MOS界面のGa2O3層に関する研究成果は、先端材料解析研究拠点 三石和貴グループリーダーを中心とし、機能性材料研究拠点、技術開発・共用部門、富士電機株式会社、山梨大学からなる研究チームによって実施され、Japanese Journal of Applied Physics Rapid Communication(JJAPRC)誌にて2017年10月23日にオンライン掲載されます。また、自立GaN基板上の自然酸化膜に関する研究成果は、機能性材料研究拠点 色川芳宏主幹研究員を中心とし、先端材料解析研究拠点、技術開発・共用部門、エネルギー・環境材料研究拠点からなる研究チームによって実施され、Japanese Journal of Applied Physics (JJAP) 誌にて2017年11月にオンライン掲載される予定です。

「プレスリリース中の図2 : PCVD法で自立GaN基板上に作製されたSiO2とGaNの界面の高分解能電子顕微鏡像.右側のGaN基板と左側SiO2 (図の黒い領域) の間の矢印の部分に、異なる周期で配列した非常に薄いGa2O3の層が観察されている。」の画像

プレスリリース中の図2 : PCVD法で自立GaN基板上に作製されたSiO2とGaNの界面の高分解能電子顕微鏡像.右側のGaN基板と左側SiO2 (図の黒い領域) の間の矢印の部分に、異なる周期で配列した非常に薄いGa2O3の層が観察されている。



本件に関するお問合せ先

(研究内容 (測定手法) に関すること)

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
窒化ガリウム評価・基盤領域 最先端電子顕微鏡グループ グループリーダー
三石和貴 (みついし かずたか)
TEL: 029-863-5474
E-Mail: Mitsuishi.Kazutaka=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

(研究内容 (デバイス) に関すること)

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
機能性材料研究拠点
電気・電子分野 ワイドバンドギャップ材料グループ 主幹研究員
色川 芳宏 (いろかわ よしひろ)
TEL: 029-860-4549
E-Mail: IROKAWA.Yoshihiro=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

(報道・広報に関すること)

国立研究開発法人物質・材料研究機構
経営企画部門 広報室
TEL : 029-859-2026
FAX : 029-859-2017
E-Mail: pressrelease=ml.nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)