分子を用いた縦型共鳴トンネルトランジスタを開発

~既存の微細化プロセスを適応可能、シリコンを超えた高性能トランジスタの開発に期待~

2017.07.31
(2017.08.01 更新)


国立研究開発法人物質・材料研究機構

NIMSの研究グループは、分子を量子ドットとして用いた縦型共鳴トンネルトランジスタの作製および動作の実証に成功しました。

概要

  1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 量子デバイス工学グループの早川竜馬 主任研究員、若山裕 グループリーダー、統合型材料開発・情報基盤部門 情報統合型物質・材料研究拠点の知京豊裕 副拠点長の研究グループは、分子を量子ドットとして用いた縦型共鳴トンネルトランジスタの作製および動作の実証に成功しました。シリコンデバイスと同じ微細化プロセスを適応し、分子の持つ離散的なエネルギー準位を利用して、“0”と“1”の2値だけでないトランジスタの多値制御に繋がる成果を得ました。次世代トランジスタに求められる微細化、高集積化、低消費電力化に加え、高速化を同時に実現する分子デバイスの開発につながると期待されます。
  2. 単一分子をトランジスタやメモリの素子に用いる分子デバイスの開発は、究極のナノエレクトロニクスとして期待されており、ここ20年の間に、単一分子の電気伝導を計測する技術が確立され、分子の優れた機能が示されてきました。しかし、分子デバイスを集積する技術が確立されておらず、いまだ基礎物性の評価に留まっています。一方、シリコントランジスタのさらなる高速化、高集積化、低消費電力化を実現するため、電子のトンネルリングを用いたトンネルトランジスタや、多値制御を可能とする単電子トランジスタが注目されています。ただ、トンネルトランジスタは、“0”と“1”の2値動作という点では従来のトランジスタと変わらず、単電子トランジスタも量子ドットのサイズをナノスケールで均一に制御することが難しいため、いまだ実用化されていません。
  3. これらの問題を解決するため、本研究グループはこれまで、絶縁体の間に分子を壊すことなく集積する技術を確立し、分子を量子ドットとして、絶縁体間に共鳴トンネル電流が流れることを実証してきました。分子はナノスケールで均一に合成できるため、サイズの制御も容易です。さらに、分子のエネルギー準位が分子設計や外場によって制御できる利点を活かして、共鳴トンネル電流の多値制御も可能であることを2端子構造において実証してきました。
  4. 今回、上記成果をさらに発展させ、絶縁体部分に分子を内包したチャネル層を、既存のリソグラフィー技術を用いて微細加工することにより、縦型共鳴トンネルトランジスタを作製しました。既存の微細化技術は、有機材料であるレジストや有機溶媒を使用するため、通常の分子デバイスでは使用できません。しかし今回提案したトランジスタ構造では、分子が絶縁膜で保護されているためシリコンプロセスで培った微細化技術が適応できます。さらに、作製したトランジスタを用いて、低温条件下 (20K) にて、ゲート電圧によってトンネル電流が階段状に変化する様子を観測しました。
  5. 今回作成したトランジスタ構造は、縦型のため高集積化が可能で、トンネル電流を使うことで低消費電力化も実現できます。さらに、分子設計に基づいたトランジスタの多値制御が実現できることを示しており、シリコントランジスタの限界を超えた高速化、高集積化、低消費電力化を実現する次世代ナノトランジスタの開発が期待できます。
  6. 本研究成果は、現地時間平成29年8月1日10時 (日本時間8月1日18時) にイギリス王立化学会が発行するNanoscale誌に公開されます。

「プレスリリース中の図1 : (a) 分子を内包した縦型共鳴トンネルトランジスタの模式図。 (b)作製した試料断面の走査型トンネル電子顕微鏡像。個々の分子が孤立した状態でドレイン電極直下に形成された酸化アルミニウム(Al2O3)とシリコン酸化膜(SiO2)間に埋め込まれています。」の画像

プレスリリース中の図1 : (a) 分子を内包した縦型共鳴トンネルトランジスタの模式図。 (b)作製した試料断面の走査型トンネル電子顕微鏡像。個々の分子が孤立した状態でドレイン電極直下に形成された酸化アルミニウム(Al2O3)とシリコン酸化膜(SiO2)間に埋め込まれています。



本件に関するお問合せ先

(研究内容に関すること)

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 ナノシステム分野 量子デバイス工学グループ
主任研究員
早川 竜馬 (はやかわ りょうま)
TEL: 029-860-4808(直通)
FAX: 029-860-4916
E-Mail: HAYAKAWA.Ryoma=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 ナノシステム分野 量子デバイス工学グループ
グループリーダー
若山 裕 (わかやま ゆたか)
TEL: 029-860-4403 (直通)
FAX: 029-860-4916
E-Mail: WAKAYAMA.Yutaka=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

(報道・広報に関すること)

国立研究開発法人物質・材料研究機構
経営企画部門 広報室
TEL : 029-859-2026
FAX : 029-859-2017
E-Mail: pressrelease=ml.nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

似たキーワードを含む プレスリリース

2023.07.07
2022.03.10
2022.01.18